人族の天敵と遭遇
ハルカがパーティーに加入してから三ヶ月。彼女は白魔術士として仲間たちをサポートし、ギルドの依頼をこなしていた。
付き合いが長く深くなるにつれ、ハルカは自分のこと恐る恐るだが少しずつ語るようになり、自分がこの世界の者ではないと打ちあけた。
それに対し彼らは驚きもあったが、どちらかというとエリオの育ての親である仙人の話と同じように半信半疑といった印象を受けていた。それは相手の心の色味でその感情を読み取るアルティメットガールの能力によってわかったのだった。
(あれ? 意外と驚かないのね)
彼らの感覚では異世界人は遠い異国と大きな差異はなく、世界のどこかにあるという浮遊王国と同じくらいに認識し、これまでと変わらずハルカを受け入れた。
そして、さらに三ヶ月が過ぎた頃。
***
「今回のギルド依頼はハイテール山に生息するヴィオレントガリルの放逐、または討伐だ。本来の生息域を出て、かなり山を下りてきたことで数件の被害が出ている」
エリオが持ってきたこの依頼をザックが説明した。
ヴィオレントガリルは大型の
「攻撃的な野獣じゃないから危険度はそれほど高くないんだけど、ヴィオレントガリルはけっこうな強さだし群で行動するから、依頼が受けられるランクの規定は高いんだ。本来ならパーティー全員が
「もし、この依頼を問題なく完遂できれば、俺の推薦とギルドの判定で、レミとマルクスは
「もちろんだ!」
「やってやるわよ!」
マルクスとレミはこれまでの経験からくる自信と少しばかりの不安を胸に、この依頼に承諾した。
「ハルカも
「はい、エリオさんがそう推薦してくれるのであれば」
少しうつむきながら照れ笑うハルカをリオーレ兄妹は冷ややかな目で見た。
「俺たちよりランクが下のハルカのほうが間違いなくってどういうことだよ」
「説明が必要か?」
拗ねた言い方のマルクスにザックが問うが、もちろん彼らもその理由を理解している。
「ハルカは魔法もすげぇけど、それだけじゃないもんな。えらい反射神経がいいからよ。剣術で一本も取れたことねぇし」
「あたしもよ。ホントに避けるのうまいもんね。あんたとやると自信無くすわ」
後衛のハルカはその身を護るための訓練をおこなっているのだが、結果としてふたりの訓練にもなっていた。
「わたしだってふたりから一本も取ったことありませんよ」
「それはお前が攻撃してこねぇからだろ」
「だって、わたしは……」
「白魔術士だってんだろ。わかってるよ。だけどなんで魔法や体術よりも才能がない白魔術士を名乗るかねぇ」
「それも説明が必要か?」
エリオの問いに対してふたりは「必要ない!」ときっぱり答えた。
ハルカたちが住む町からそれなりに離れたその場所は、開拓され始めたばかりのうっそうとした森の中。そこに村を作りこの国の領土の開拓拠点としていた。
結果、ヴィオレントガリルが生息する山の中腹より下であれば、安全に人が住む対策は可能であると確認でき、そこを境界として開拓を進めていたところで騒動が起こったのだった。
今回も他の町のギルドとの重複依頼であり、いくつかのパーティーが開拓拠点の村に集まった。
ヴィオレントガリルの放逐はゆっくりだが着実に達成されていった。
そんな中で、なぜこのようなことが起こったのかと考えたエリオたちは先行して山を登る。その先で、原因であると思われる現場を発見した。
「あれはなんだ?」
そこは結界で隠された場所。不穏な空気をため込んだこの場は広く木々が薙ぎ倒され、ふたつの魔術陣が描かれている。その中心にはそれぞれ人と魔道具が浮いており、その魔術陣を囲うように岩で作られた人形が三十体ほど並んでいた。
「魔造人形があんなに。あれをあいつひとりで操るのか?」
その光景を見てザックはくぐもった声で言った。
「うちのギルドの黒魔術士だって操れるのはせいぜい四体だって言ってたぞ。特に魔造人形を操ることに長けた者でも十体を超えることはないって」
その術者とおぼしき者をよく見れば、頭部の右側に角が生えている。
「あいつ……、魔族じゃないか?!」
思わず大きな声を上げたマルクスの口をレミが塞いだ。
まだまだ未開拓な地の多い人族の繁栄する地の北方には、『黒の荒野』と呼ばれる場所がある。そこは高濃度の魔素が漂い、人族の心や体に変異をもたらすと言われている。そんな環境で平然と暮らしているのが魔族だ。
「あいつのせいでヴィオレントガリルが追いやられて山を下りたってことね」
「たぶんそうなんだろう」
エリオが答えるとその横でザックが彼の肩を叩く。
「思い出したぞ。あの魔術陣は
「ヘキハのギってなんですか?」
この世界のことに疎いハルカにエリオが説明した。
「人の成長の停滞期を突破して、次の成長期に入るための儀式だよ。その壁を突破するにはそれなりの努力や経験や刺激が必要だが、この儀式はそれを強制的に突破させる」
(わたしに成長の停滞期ってあったかしら?)
アルティメットガールとして戦ってきたハルカは過去の出来事を振り返る。
「魔族も同じような儀式があるのかもしれない。そうなったら人族にとってとんでもない脅威になる。止めないと」
エリオは中腰になってその足に力を溜め、腰の剣の柄に右手を添えた。
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