念願の仲間

スペリオルウルフェンとの戦いで、ひどい傷を負ったマルクスとレミ。ふたりはハルカの白魔術のおかげでどうにか町に戻り、手厚い治療を受けることができた。


このときの経験を持って無事に生還したことが、彼らの初級者感を拭いさる。結果、闘士としての強さと冒険者としての巧みさを身に付けられたと実感し、ハルカに強い感謝の念を持つことになった。


そのふたりが兄妹であることをハルカが知ったのは、二度目のお見舞いに訪れたときだ。


「恋人ではなかったんですか?」


リオーレの姓を持つふたりは、ハルカのリアクションとこの反応に顔を赤らめて否定する。


「なんでこいつと!」


「そんなわけないじゃない!」


「すみません。なんていうか、ふたりのやりとりや雰囲気から、そんなふうに感じたので」


マルクスとレミが横目で視線を交わすと、少しだけ悩んでからハルカに説明した。


「俺たちは子供の頃、魔族との争いで親が死んじまったんだ。そんで孤児院で一緒に育ったんだよ」


「あたしたちは二年前に孤児院から独り立ちして、すぐに冒険者の訓練を一緒に受けたの」


このふたりが共に十八歳だと聞いたにもかかわらず『兄妹』ということに疑問を感じなかったハルカは、双子でもない彼らの説明が本当の兄妹ではないと言っていることに気づけなかった。


「この町でパーティーを結成したんだけどさ、初心者ふたりがうまく依頼がこなせるわけもなくて。四苦八苦してたらザックが声をかけてくれたわけ。正直その理由は今でもわからないんだよね」


 そのザックは冒険者歴八年の二十三歳で、このパーティーのサブリーダーだ。


「ザックさん、身長はいくつなんですか?」


「一九五だ」


 ハルカの質問にちょっとぶっきらぼうに答える彼は、高身長で一〇八キログラムという巨漢の重闘士。


 ハルカはレミとマルクスを誘った理由を聞いてみた。


「俺が冒険者になった頃と重なったからだ」


 その彼の冒険者ランクはアドバンスド級の中位。大分類では上から二番目の有望株。


 話しているうちに彼がエリオとは幼馴染だと聞き、それだけでハルカの中での高感度が上がった。しかし、彼が幼い頃に何者かに村が襲われたことが原因で、その頃の記憶はほとんどないという。


 そして、一年と少し前にギルドに登録してこのパーティーのリーダーになったのがエリオ=ゼル=ヴェルガン。年齢は二十一歳でザックの幼馴染である……のだが、ザック同様に記憶はない。


「エリオが一年前にこの町にやってきたときに名前を聞いて思い出したんだ。だけどエリオは俺のことだけでなく、幼い頃の記憶がほぼないらしい」


 ハルカが触れてはいけないことに触れてしまったと気まずそうにしていると、エリオはまったく気にした様子は見せずに言った。


「気にしてないよ。人生はこれからどう生きるかさ」


 そんな彼が、この町でザックと再開するまでのあいだ、どこでなにをしていたのかというと、仙人と呼ばれる者に育てられ、生活しながら修行をしていたのだという。


 この話を聞いたハルカは「この世界はファンタジーだなぁ」と感想を漏らした。


「ん? ふぁんたじぃ?」


「いえ、わたしの世界での言葉で……」


「わたしの世界?」


「あっ、わたしの国というのかな。あはははは」


 エリオの話はマルクスとレミも半信半疑といった感じで聞いていたことから、仙人というのはこの世界でも一般的ではないらしいとハルカは理解した。


 彼らが受けたスペリオルウルフェンの群の討伐という依頼は完全達成されなかった。しかし、群のボスであるグレートウルフェンを討ち取ったことで、エリオの冒険者ランクが、アドバンスド級からAAアドバンスド・アウェイク級へと上がり、さらにはこの国の冒険者百選という名誉ある肩書を得るに至った。


「冒険者百選入りは王具グレンのおかげだよ」


 と、自身の愛剣のおかげだと謙虚に答えた彼に対してザックは言う。


「王具を扱えることこそが強さの証だ」


 王具とは使用者を選ぶかなりじゃじゃ馬なモノなのだ。


 そんな彼らとの出会いから三日後。三度目のお見舞いに訪れた際にハルカはパーティーに誘われた。


「わたしがですか?!」


 この驚きは、念願のパーティー入りの喜びというだけではない。彼女の心に生まれた感情が、エリオからの誘いによって過剰に反応したためだ。


「でも、わたしの白魔術は市販の治療用ポーションにも劣ります。わたしを入れるよりポーションを買ったほうが……」


 ハルカは返す言葉もないほどに感激したのだが、この誘いが『善意による過度な施し』なのではないかと素直に受けられなかった。さらに、自分がこれまで三度も解雇されたことを想起し、エリオにも解雇されてしまったらという恐怖がハルカの心を縛っていたのだ。さらに、自分がこれまで三度も解雇されたことを想起し、エリオにも解雇されてしまったらという恐怖がハルカの心を縛っていたのだ。だが、そんな彼女の手を握ってエリオは言った。


「関係ない。君にはスペリオルウルフェンの群にも怯まない勇気と、俺の仲間たちを助けた思いやりがあるじゃないか。君の白魔術で俺たちを助けてくれないか?」


 この言葉がその鎖を切りつけた。


「魔法ではなく白魔術ですか?」


 ハルカは心を落ち着けてからエリオに確認する。


「君は白魔術士なんだろ?」


 この返答にハルカはさらなる衝撃を受け、次々と心を縛る鎖が切られていく。


「俺たちには君が必要なんだ」


 エリオはハルカの心を解き放ち、パーティー加入を決めさせたのだった。


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