第5話 茜色のカケラ

 土に埋まっていたのは、茜色の宝石だった。

 僕の記憶では、LANDすけーるの宝石は次の仕組みが成り立っていた筈だ。


 茜色…動物

 橙色…炎

 黄色…金属

 緑色…植物

 藍色…空間

 水色…水

 無色…電気

 色によって、作り出せる物質が違う。


 今回見つけたカケラは小さめなので、小動物を魔法によって作り出せると思う。

 何の動物にしようか…?じっくり悩むのは得意ではないので、頭にぱっと思い浮かんだものにしよう。

 ボフッ…。

 指先で宝石を軽く叩くと、煙が周囲を取り巻いた。

「マンガみたい…」

 やがて、煙が消えてゆく。中から現れたのは…。

 ふわふわ。

 もこもこ。

 雪のように真っ白い。

 宝石と同じ色の、まん丸い目。

 餅のような柔らかフォルム。


 そう、僕の好きな、兎だった。

「主さま。ワタシを生んでくださり、感謝します」

 兎から、声がした。

「しゃべった?!」

 後退ってしまってから後悔した。

「怖がらないで下さいませ。主さま」

「あのぉ…主さまって、僕のこと?!」

「左様でございます」

「えっと…何から質問すべきか、状況整理が付かなさ過ぎて困る。取りあえず、主さまはむず痒いから止めて…」

「では、何とお呼びしたら?」

「僕には広瀬大地っていう名前があるから、大地って呼んで欲しい、かな」

「大地さま。大地さま。大地さま」

 兎は、僕の回りをぐるりぐるりと跳び跳ねていた。嬉しそうだ。

「嬉しそうだな…」

「はい!大地さまに出会えて、ワタシは幸せでございます」

 ド直球に言われると、照れる。

「ところで、僕は君のことを何と呼べばいい?」

「ワタシに名前など、ございません。大地さまがお名付け下さい」

「そうか…。ならば…雪大福!今日から君を、雪大福のユキと呼ぼう」

「ユキダイフク…?とは、何ですか?」

「君にそっくりな、スイーツの名前だよ」

「わかりました。ユキ、ワタシはユキです!よろしくお願いします」

「よろしくな」


 うーん…、困ったなぁ。

 僕の食糧として、動物を作った筈なのに、可愛いじゃないか。

 食べるなんて…、僕にはできっこない。

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