体育倉庫での告白
下洛くらげ
監禁からの告白
あたりは暗闇で何も見えない。
それもそのはず、俺は今閉じ込められているのだ。
場所は第一グラウンドに併設されている体育倉庫。
普段なら部活で使う用具を出すために開けっぱなしだが、今日は生憎のテスト期間。放課後のこんな時間に残っている生徒もいるはずななく、倉庫内に一人閉じ込められている。
ではなぜ俺はこの時間のこの場所にきたのか。
端的にいえばハメられたのである。
今日の帰り、靴箱に入っていたラブレター。
中には「恥ずかしいから、体育倉庫の中で待っていて…」の文字。
これは春が来た。
俺は急いで体育倉庫に向かい、律儀に待った。
その結果がこれである。
後ろから誰かに押され、つまずいたタイミングに扉を閉められた。あげくに施錠までされる始末。手慣れた犯行。明らかにプロの所業である。
しかも携帯が入ったカバンはクラスに置きっぱなし。
状況としては最悪だ。
ハッキリ言おう。
これはただのイジメである。
しかもこの時世にゴリゴリのイジメだ。
だがしかし、今まで誰かにいじめられた記憶もなく、現在進行形でも記憶はない。
イジメがあるクラスでもないはずだ。
こんな事をされる覚えもない。
そんな中、体育倉庫の外から足音が近づいてくる。
「すいませーん! そこにいる人、中に人います! 助けてください!」
ここぞとばかりに、SOSを送るが、相手からの返事はない。
もしかして、この状況を作り出したイジメの主犯格が戻ってきたのか……!
なんて性根が腐ったやつなんだ。
と、俺の正義の心が燃えだしたのもつかの間、犯人が話す。
「静かにしてください。聞こえてます」
……女の声だ。
しかもめちゃくちゃキレイな声だ。
しかしこんな声のやつ、クラスにいただろうか。
もちろんクラス外の可能性もあるが、クラス外のやつが俺の靴箱を知っている可能性は低い。そのため、クラス内の犯行だと思っていたが、もしかして他クラス、もしくは他学年の可能性もでてきた。
「貴方を閉じ込めたのは私です」
いきなりの犯行声明。
やはり犯人は現場に戻るのか……!
「誰かはわからんが、許してやるから、早く出せ」
「それはできません、」
はっきり言うな。
「つまり、一日ここにいろと?」
「いや、明日土日なので、正確には3日です」
「うるせぇよ!」
そうだだった。テスト挟むから今週は部活がない。
やばいじゃないか。
というか、誰なんだよこいつ。
「ただし、言うことを聞いてくれたら出してあげます。」
「言うこと……?」
「はい、それも簡単なことです」
「……なんだよ」
「私と付き合ってください」
「……は?」
「私と付き合ってください」
「聞こえてるわ。いや、そういう事じゃなくて」
何だこいつ、人閉じ込めておいて付き合ってくださいだと。
もちろん嬉しい、人生で初めて告白された。
だがしかし、流石に怒りのほうがこみ上げてくる。
「それは私をフるということですか?」
「いや、フるとかフらないとかの話じゃなくて……」
「いえ、そういう話です。私と付き合うのか、付き合わないのか。……どっちですか?」
「……わかった。はっきり言ってやる。顔も知らねぇ、名前も知らねぇ、挙句の果てには閉じ込める。そんな奴と付き合うわけねぇだろ」
「つまり、私とは付き合えないと?」
「そういうことだ」
「そうですか……それは残念です。ではさよなら」
「いや、まてまて」
そう告げた女歩いていく足音が聞こえてくる。
あいつ、まじで帰るつもりか。
「待ってくれ! せめて開けてくれ! 誰にも言わないから!」
すると足音が戻ってくる。
「……それはできません」
「なぜ?」
「私がふられたからです」
「はぁ?」
「私はこう見えてプライドが高いのです」
いや、顔がみえねょ。
「高いからって閉じ込める意味がわかんねぇよ」
「フッた貴方に泣いている顔を見られたくないのです」
「……」
回答に困る。
というか泣いてるのか、声質変わってないから気づかなかった。
「分かった、だったら鍵だけでも開けてくれ。すぐには出ないから。お前が行った5分後くらいに出る」
「信用できません」
きっぱりである。
……流石に切れそう。
何なんだこいつ。面に向かって告白されてもフッてしまいそうだ。
「じゃあ、どうしたら出してくれるんだ」
「付き合ってくれたら」
やっぱそれしかないのか……
「ちなみに私はもうフラレたので帰ります。それに今後私から告白することはありません。あれが最後の告白でした」
「……ちょっと待て。俺はお前と付き合わないと出れないんだよな?」
「はい、そうです」
「そしてお前からは告白しない」
「そのとおりです」
つまり、俺から告白しないと出れない……と。
「……お前、めちゃくちゃプライド高いな!」
「だからそうだと、さっき言いました」
いや、びっくりだわ。
完全にはめられた。
最初からこいつはフラれる事を想定して、告白されるのをまってやがったのだ。
自分を犠牲にあくまで告白待ち。
おそろしい。とんでもねぇ女だ……。
「私そろそろ帰りたいんだけど?」
急に馴れ馴れしくなるな。腹が立つ。
「うるせぇ、なんでお前が待たされている雰囲気だしてんだ!」
「あっ、傷ついた、帰ろ」
「ゴメンナサイ! 待ってください。お話があります」
……くそっ、なんて屈辱。
顔も知らんやつに閉じ込められなが告白なんて。
「顔も名前も知らないけど、声に惹かれました。ボクトツキアッタクダサイ」
「気持ちがこもってない。それに最初のはいらない」
「……クソがっ」
「なに?」
「いえ、なんでもありません」
カタコトになってしまったのがバレたようだ。
しかし、気持ちがこもってないと言われても、当たり前だ。
お前のことを俺は1ミリも知らねぇんだよ。
だがしかし、こんなとこで3日も監禁はきついのも事実。
「そろそろ帰ろうかな~」
「待ってくれ!」
男を見せろ俺!
「大事な話がある」
「はい、なんですか。こんなとこにいきなり呼び出して」
……コイツっ!
いや、クールになれ俺。
ここを耐えて後で盛大にフッてやればいいんだ。
意を決し、いざ人生で初めての告白。
「好きです! 付き合ってください!」
「嫌です。顔も見せてくれない人とは付き合えません」
「テメェエエエエエエエエ!!」
流石に切れた。
思いっきり扉を叩く。
が、「ガチャ」と鍵が開く音がすると、あっけなく扉が開かれる。
久しぶりのグランドは夕暮れに照らされ真っ赤に輝いている。
その光に思わず目をつぶると、聞き慣れた、あの腹が立つ声が聞こえてくる。
「だから、もう一度お願いします」
聞き慣れない声なのは当たり前だった。
制服がうちの高校と違うからだ。
どこから入り込んだのか。はたまた謎である。
しかし、そんなことはどうでも良かった。
何故なら顔には見覚えがあったからだ。
「……お前、こんな所で何してんの」
「いや、お兄ちゃんを迎えに来ようと思って」
そうとぼける彼女だった。
体育倉庫での告白 下洛くらげ @RedSwitch03
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