ep6.抹茶とアイス⑥

 そうこうして、僕たちはようやくB館地下のアイスクリームショップまでたどり着いた。何だかんだで三十分くらいは寄り道していたように思う。

 アイスクリームショップは食料品売り場を抜けて少し先に行った、フードコートに近い位置にあった。突っ切ってきた食料品売り場は夕方の時間もあってかずいぶんと活気づいていた。おいしそうな惣菜がいくつも並んでいて少しだけ気になったが、そのまま通りすぎてきた。ここで立ち止まっていてはいつまでもアイスクリームショップにたどり着けない。

「すっかり遅くなっちゃったな。寄り道しすぎた」

 アイスクリームショップの看板を眺めながら僕が呟くと、高森はゆっくりとこちらを向いて目を細めた。

「織部だって、けっこう楽しんでたじゃないか。手に白菜持ってるし」

「……クッションだから」

「でも、白菜だろ」

 先ほどと同じやりとりを繰り返す。

 ゲームセンターで取った白菜のクッションはそこそこの大きさがあり、通学鞄には入りきらなかった。そのためしかたなく僕は、ゲームセンターに置いてあった手提げつきのビニール袋に入れて持ち歩いているのだった。しかし微妙に袋のサイズが小さいせいで、白菜の頭の部分が袋からはみだしていた。通りすがりにちらちらと見られて少し恥ずかしい。

 家に帰ったらさり気なくソファにでも置いておこう。クッションなのだからおかしくはないだろうし、マグカップを可愛いと言う母親ならば白菜のクッションだって可愛いと思うはずだ。

 アイスクリームショップはこの時間でも混雑していた。今日開催のフェアにつられてやってきた客が多いのだろう。もちろん僕たちもその一人のわけだが。店の前にも大きくフェアの広告が貼られており、それを見て立ち止まる客もいた。

 レジを待つ列はすでにずいぶんと長い。僕と高森はいそいそとその最後尾についた。順番を待ちながら、ショーケースのなかを確認する。

 十種類以上のフレーバーが並んでいるのが見えた。少し距離が遠いので、それぞれのフレーバーがどんなものなのかは確認ができない。高森がお品書きの書かれたチラシを僕に渡してくれる。入り口付近にもお品書きの書かれた同じ看板が掲げられていたが、その下に取りつけられたボックスにチラシが入っていたのだ。いつの間にかそれを取ってきていたらしい。

 それぞれのフレーバーの説明書きを読みながら、どれも気になって目移りしてしまう。さすがにコンビニのアイスとは比べものにならないくらい種類が豊富だ。今日はシングルの値段でここから二種類を選べるわけだが、どれとどれを組み合わせたらいちばんおいしいだろう。

 店員の傍にある、減りの早いものがおそらく人気の商品のはずだ。一種類は王道にそれを選ぶべきだろうか。

「高森は、ここでよくアイス食べるのか?」

 高森の意見も参考にしようと思い、僕はそう訊ねてみる。

「たまに食べるくらいかな。だからおれもそこまで詳しくはないけど。今日はフェアやってたから、織部と一緒に食べたいなと思って誘ったんだ」

「じゃあ、どれがお薦めとかは?」

「いつも選ぶのはこれかなあ」

 僕が手に持っているチラシを覗きこみ、いちばん上のフレーバーを指差す。説明書きを読む。はじける飴が入っていて、口のなかに入れるとぱちぱちと爆ぜるようだ。ショーケースを見た感じ、いちばん減りが早そうだった。つまりいちばん人気ということだ。

「今日も頼むのか?」

「一種類はそのつもりだけど」

「じゃあ、だめか」

 僕は溜息をついて、またチラシとにらめっこする。おいしそうだが、高森が選ぶというのならこのいちばん上のフレーバーは除外だ。

「……だめって?」

 高森が不思議そうな顔をして訊ねてくる。

「食べたいんなら、織部も同じの頼んだらいいんじゃないの?」

「だって、同じやつ選んだら分ける意味がないじゃないか」

 そう答えると、高森はまじまじと僕の顔を見てくる。僕はなぜそんな顔をされるのかがわからない。

「何だよ?」

「分けるの?」

 高森が確かめるような口調で言う。

「分けないのか……?」

 今度は僕がまじまじと高森の顔を見る番だった。

 僕はすっかり高森と分けて四種類のフレーバーを味わうつもりでいたのだが、高森は違ったのだろうか。こんなにたくさんあるフレーバーのなかから二種類に絞るのはなかなか難しいのだが。

 僕が戸惑っていると、高森はすぐに相好を崩してふっと息を吐いた。

「いや、分けるよ。ひと口ずつ分けよう」

 織部の成長が見られて楽しい、と高森は言った。楽しいって、何だ。

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