演奏だけ続ければいいという訳ではない

 彩が俺の写真を撮っていた事を知ってから数週間が経った。


 今では音楽室の傍で、俺がピアノの練習をしている合間に、二人は俺の昔の写真と声を聴いて興奮していたりする。


 寧ろ、彩にもああいう面があるなんて、全く気付かなかった。


 それと、何故か部活が終わると、浅田先生も混じり、三人で盛り上がっている。


 自分がピアニストになるかまでは分からないけれど、いつか人の前で演奏しなくちゃいけないかも知れない。その時、誰も聞いてくれない中で引く事あるだろう。


 今はその予行練習がてら、この騒がしい音楽室で頑張ろうと思う。




 しかし、この時の日向ひなたは一つ大きく勘違いをしていた。


 彼女達が、演奏中は一切喋らず、日向を見つめていた事を。




 ◇




 夏のある日。


 音楽室では相も変わらず、毎日練習を続ける日向ひなた


 その日も彼女達は日向のピアノを眺めていた。


「ひなたくんの演奏は本当にいいわね~」


「はい、先生のおかげでもっと上達して嬉しいです」


「私はひなたくんの演奏で助けられましたから、あぁ……ひなたくん♡」


「ふふっ、二人ともひなたくんが大好きなんだね~、そんなひなたくんの素晴らしさを世界に広める方法はないのかしらね……」


「えっ? ひなたを世界に広める?」「えっ? ひなたくんを世界に広める?」


 意外にも息ぴったりの彼女達。


 二人は何かを考え込んだ。


 最愛の彼の素晴らしさを世界に広める。


 その魅惑の言葉に、二人が食いつかないはずもなく。




「そういえば、最近ではライブの音楽を載せるサイトなんかもあるらしいわね、吹奏楽部がそこに動画を載せると言っていた気がするわ」




 浅田先生の言葉に、二人の表情が一変した。


「「それです!」」


 懸命にピアノを奏でている日向を横に、二人の計画が進み始めた。

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