四 限界

 今ベッドに横たわる僕の隣で彼女が眠っている。

 そう書くと語弊があるが、正確にはベッドの傍らでうつ伏せになって眠っている。


 ずっと僕のことを看病してくれていたのだろう。

 体の気だるさも熱っぽさもなくなっている。


 今日一日の記憶がほとんどない。彼女には申し訳ないことをした。

 原因は分かっている。明らかな寝不足だろう。


 いくら緊張しているとはいえ、三日間もろくに眠らないのはさすがに体が根をあげてしまったらしい。


 外の暗さを見るに日もとっくに落ちてしまっているようだし、起こすのも申し訳ない。


 後でブランケットでもかけてあげよう。

 今日、どんな彼女に会えるはずだったのか。それを全く覚えていないのが心残りだ。


 どんなことをしてどんな会話ができるはずだったのか。

 そんな何気ない一日が失われてしまったのが心苦しい。


 気持ちを切り替えて今は彼女が作ってくれたのであろう雑炊を食べることにしよう。


 明日はどんな彼女に出会えるだろうか。



 追記

 雑炊を食べて今日がどの彼女だったのか分かった。確かにぼんやりと難しい訳の分からない用語を並びたてられていたような気がする。


 彼女は『ドクターイメージ』の彼女だ。

 確かに彼女は驚異的な腕を持つ医師でありながら私生活はボロボロという女性だった。


 ただどうしてだろうか。確かに作ってもらった雑炊は冷めていたし、お世辞にもおいしいと言えるものではなかったが、身体にしみこむような温かさがあった。


 彼女はまだ起きそうにない。

 今日は僕もゆっくり眠れそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る