三 散歩

 今日は嫌がる彼女を連れて家の周りを散歩することにした。

 どこか出かけることも考えたけど、どこに行っても特別感が出てしまう。


 それに観光地などに行こうものなら、すぐに彼女があの『無色の女優』だということがばれて、大騒ぎになってしまう。

 それでは彼女に当たり前で普通の生活というのを送ってもらうことができない。


 今日の彼女は一目見て昨日と違うと判断できた。

 そしてそれが誰なのかもすぐにわかった。


 今日の彼女は『模範刑事』の冷静沈着で真面目すぎる刑事役の時の姿だろう。

 昨日は無邪気なまるっとしていた瞳を向けてきていたのに、今日は真逆、鋭い眼光を周囲に光らせている。


 そんな彼女が外に出ればパトロール感覚になってしまうというのもわかってはいたけど、それでも一日中家にいるのもと思い、散歩に誘ってみた。


 最初は嫌がっていたがしつこい僕に折れてくれたのか渋々ついてきてくれた。

 結果的に少し笑ってくれたり楽しそうにしてくれていたからよかったと思う。


 そういった姿はドラマでも見なかったところだ。

 彼女はいつも厳格で真面目で仕事に真摯であり続ける女性だったから。


 そんな彼女を見ていると不思議な感覚になる。僕が知っている彼女なんだけど、知らない女性のような感覚。


 まさしくドラマに出ていた人物が今目の前で生きているような感覚。

 それでも彼女は、彼女なんだ。


 まあ散歩途中で注意している場面もあったから、それもやっぱり彼女らしいと、そう思った。

 ここ数日ちゃんと眠ることができていない。


 当然だろう。自分の好きだった人が家にいるのだから。

 倒れて彼女に迷惑をかけるということだけは避けたい。


 今日こそぐっすり眠りたいものだ。

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