二 フィクションの中の存在
昨日日記を書いてからというもののよく眠れなかった。
椅子に座ったまま夜が明けてしまった。
改めて読み返すと昨日の日記は我ながらに気持ち悪い。
他の人には見せられない。
そんな今日の目覚めは彼女からのドロップキックだった。
底抜けに明るくわんぱくでやんちゃな彼女の姿、昨日の妖美な雰囲気は微塵も感じられない彼女に最初こそは驚きはしたものの、僕はそんな彼女を確かに知っていた。
あれは彼女が主役のドラマ『一人家族』に出演していた時の子供役をしていた彼女だろう。
あのドラマで彼女は一人の女性でありながら頭の中に家族を作り出しており、それが表面化するという奇抜な設定のドラマだった。
とてつもない演技力を持つ彼女だから務まった役。
あのドラマを見た全員が口をそろえてそう評価する。
大人でありながら子供な女性。そんな彼女が僕の前にいたのだ。
今日は彼女を連れてスーパーに行くことにした。
なぜなら昨日彼女は「スーパーに行ったことがない」と言っていたから。
僕は一人暮らしで毎日自炊をする派の人間だ。
だから僕にとって当たり前でなんてことないスーパーへの買い物について来てもらおうと思ったのだ。
スーパーでの彼女は実に無邪気で動きを制止し、話をするのがとても大変だった。
ドラマでも大人な子供の彼女はこんな感じだったなと思いながら、一緒に買い物をした。
そして今は無表情で静かに寝息を立てている。
本を読みだしてすぐに彼女は眠ってしまった。
それでも日記は欠かさずにつけていたからえらいと思う。
僕は早くも日記を書きだしたことなんて彼女が日記を取り出すのを目にするまで忘れていたし。だから今慌てて書いている。
彼女の豹変ぶりには確かに驚きはしたけど、それ以上に今日一日彼女が楽しそうにしていたから、僕はそれだけでよかったと思う。
ところで彼女がまだ家にいるという状況に慣れそうにない。
僕は今日もまた眠れないのだろうか?
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