奏と休日と その4

 ふふん。


 かなり御満悦な表情で帰宅した奏。

 手早く、腰ゴムの伸び切ったスウェット楽ちんスタイルに着替えていく。

 数分前に見せた格好いい姿は、すでに見る影もなかった。

 どれにしようかなぁと、棚に並んでいる水曜どうでしょう DVD とにらめっこ。その間、スウェットは軽くずり落ちてきていた。

 なかなか気が進まないだけで、裁縫は得意としている。腰ゴムを通すくらい、簡単にやってのける技術はもちろんある。

 ただ、なかなか気が進まないだけ。

 北海道出身の僕の影響で、水曜どうでしょうを一緒に見る羽目になった奏だったが、驚くほどのハマりっぷりを見せた。


「飽きないの?」


 水曜どうでしょう藩士の僕が心配するほど、毎日のように永遠と視聴している。

 視聴というよりは、再生して満足しているらしい。4人のやり取りを耳に入れてるだけで癒されるそうだ。

 ちゃ~ん、ちゃっちゃっちゃっちゃっちゃららら~ん。

 間抜けなオープニングが流れ出した。

 ベッドの上に愛用のノートパソコンを開き、床に重たい腰を下ろして、昨日持ち帰った仕事をカチャカチャとこなし始める。


 あっ、さっきの新作映画を忘れないうちにレンタル登録しとかなくっちゃ。


 小一時間ほどで作業を終えると、んん~終わった~っと少し丸まった背中を伸ばす。

 よいしょ! っと、床に根付いてしまったお尻を剥がした。


 んん・・・さすがにゴム入れ直すか。


 裁縫する気になったようだ。

 だがまずは、静岡茶を淹れに台所へ足を運ぶ。

 やかんに水を入れて火にかけたら、茶筒を取り出し、お茶っ葉を急須へ。

 茶筒の蓋を開けた瞬間と、急須に入れる時に香り立つお茶の香り。これは、いつ嗅いでも静岡県産が一番だと豪語する奏。

 高校卒業までを過ごした静岡県。語り切れない程の思い入れと、切っても切れない親友たちがいる。

 高校卒業後は、親の都合で京都へ引っ越して来た。大切な故郷。最低でも年に一度、必ず帰郷することにしている。

 お土産は、もちろん静岡茶。と「モケケ」という謎のぬいぐるみ。

 奏が淹れてくれるお茶は、苦味が絶妙で凄く美味しい。僕が淹れると、ひたすら苦い。何が違うんだろうか。

 そして「モケケ」

 この謎のぬいぐるみ。もうコレクションと言っても過言ではない。だって10体くらいに増殖しているのだから。


「もっと他のお土産がいい」


 そう駄々をこねても、にんまりとした表情で鞄から差し出される新たなモケケ。もう恐怖でしかなかった。

 僕の困った顔を見るのが好きだとでも言わんばかりに、奏がみせる珍しい「ドS」な一面。

 よくよくモケケを見ていると、この笑った表情と奏のにんまり顔。

 そっくりだ・・・

 引き続き、水曜どうでしょうをラジオ代わりに聞き流す。裁縫を手早く終わらせ、大好きな小説や漫画を読む。

 本日のお供は、先日、全巻揃えきった「のぼさんとカノジョ?」と「よつばと!」

 奏流の引き籠りダラダラ休日。免許皆伝。

 帰宅するよ LINE が届くまでは、途中うたた寝をしては起きを繰り返す、幸せなリラックスタイム。ぽかぽな陽気で部屋が温かいと、なお良い。



 携帯が鳴った。

「帰るよ~」

『気を付けて帰ってくるんだぞ』

「押忍!」

 ん~~~っと大きく伸びをして、台所に立つ奏。


 カレーだ。やっふ~~~ぃ。

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