第3話 度を超える(意味深
「「乾杯!!」」
気を遣ってサラダ注文したらビールには焼き鳥でしょとか言われる始末。ちゃんと最後まで付き合って聞かない僕も悪いが、メニューの隅から隅へと視線を落として店員さんを呼び出し、いちいちどんな料理だか聞くんだから困ってしまう。
へー、後から文句を言うタイプの人だなと思ったら、2品目に選んだほっけ焼きは親指を立てて静かに喜んでいたから良し。
で、3品目の焼き鳥が来た頃にはビールの泡なんか消えてしまっていて、もう気がすむまでやればいいよと呆れてしまっていた。
「それでは一口行きますっ!ごくん。うげっ、苦ぁ」
「うん、うん。こんなもんだろ」
確かに苦かった。ただ、飲めないわけではない。こう喉に来る爽快感を味わえば、なんて気の利いたことも言えないけれど。
ビールを一口飲んだアキさんは渋い顔をして無言でタッチパネルを操作。そして烏龍茶を注文。この間二秒。
「なに大人ぶっちゃってるの?うーん。甘いやつにしておけば良かったなぁ」
「無理して飲むお酒は美味しくないって」
中ジョッキに入ってるビールは黄金色に光ってはいるけれど、それを見るアキさんの顔はちっとも晴れやしない。
「様式美にこだわるからダメなんだよ。好きなの呑んどけ」
「あの、好きなものがわからないんですがどうしたら・・・」
「ええ・・・」
とか言われても、僕が選んだ酒で酔われても困る。でもなんだか本当に申し訳なさそうに言うんだから。ほんとまぁ仕方ないな。
「カルピスサワーだな。これ行ったら?」
「ほんとに?おいしいかな?これ呑んだらカルピス嫌いにならない?」
「じゃあ僕がカルピスサワー頼むから、ソフトドリンクのカルピス頼みなよ」
「いや、わたしはお子様だからジンジャーエールにする」
「コークジンジャーもあるね。名前的には呑めそうだけども」
「あーん。もうやっぱ店員さんに聞くっ!」
そして店員さんに聞いた結果、カルアミルク(ほとんどミルク)が出てきたのを皮切りにアキさんの呑むペースが上がった。
ごくん、ぐび、ぐびび。
グラスを大切そうに抱えて飲むアキさんは小動物みたいで可愛いかった。
「これ美味しいよかずくん、飲んでみてよ」
とかなんとか言っちゃって、間接キスとか気にしないのかな。どれどれ、ごくん。
えっ・・・これ、ほとんどミルクなんだよな?ほんとかよ店員さん。
「美味い。・・・けどアルコール度数高そう」
「でもでも、飲みやすいし良いの教えてもらったかも!」
カルアほとんどミルクの力を手に入れたアキさんは、料理もあれよあれよという間に平らげていく。
アキさんの目元にふんわりカールの前髪がボリュームたっぷりにぽいんぽいんとリズムを刻み、それを眺めていたらいつのまにか食べ物は消えていた。
僕が食べたものといえば、三品目の焼き鳥2本だけだ。
「かぁずくん。便座シートわぁ、洗うタイプ?」
「1ヶ月に一度、シートを取り替えてる」
「汚いなぁ。週一で洗いなさぁい!」
なぜ僕は説教されなくてはならないのだろうか。なんだかやばいと思ったので店員さんを呼んでお酒を全部下げさせて、代わりに水を注文する。
ビールはなんとか呑めた。ついでにさらっとアキさんが一口飲んで残したビールも完飲。
あー、トイレ行きたくなりそう。その前に気をつけねばならないのは、おそらく綺麗好きなアキさんにトイレ譲らないと怒られそう。あ、男女別だから大丈夫か。
「つーか、ほんとにトイレ大丈夫?」
「やだよー。他人がげろげろしたトイレに座りたく無いよー」
アキさんの顔を見るが、少しも赤くなっていない。顔に出ないタイプか。にしても弱すぎる。カルーアほとんどミルク二杯で酔っ払うとは。
「どこのトイレなら行ける?」
「おうちのぅ。トイレぇ、一択ぅ?」
「コンビニとかもダメ?なんだったら今お客さんいないから綺麗だって。大丈夫だって」
「ほんとぅに?」
そうしてなんとか説得してトイレに行かせたら、一息ついたのも束の間。席に戻ってくるなり、お腹すいたー、と鬼注文を始める。
あっ、あっ。そんなにチーズ注文しないでよ。さっき口走ったから食べたくなったのね、はいはい。
アキさんに聞こえないように店員さんにひとつだけの注文に変更しつつ、僕は話題を変えることにした。
「アキさんの友達って何時に来るの?」
「むっすー。アキちゃんを家に帰そうとしてるでしょ?」
「いや、ここまで世話したから友達に言わなきゃいけないと思って」
「お酒禁止って言おうとしてる?」
「当たり前だ」
ちょっと強めに言ってみた。まぁ、もしかしたらこの人とは今日限り会わないかもしれない。だけど、この迷惑のかけ方は不味いだろう。
しかし、アキさんは青ざめるどころか嬉しそうな顔をするのだ。
「かずくん、合格っ!」
「は?」
パチパチパチパチ。
そしたら一斉に周りの店員さんが拍手するし、意味がわからない。
何が、どうなった?
モノクロとセピア色に終止符を とろにか @adgjmp2010
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。モノクロとセピア色に終止符をの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます