#010~箱庭入門『家造り』


 雨の止まない中、俺とマインは野晒しになっている遺体を全て町の下に埋めて祈った。

 燃えた家屋に埋もれた遺体も全て埋葬したため、瓦礫の撤去にクラフトを使わざるを得ず……町のあちこちが箱だらけになってしまっている。そのまま放置しておくのもあれなので箱も全て回収する。

 昨日まで港町であったはずが……本当に家屋も木々も露店も船も積み荷も……人も。何もかもが無くなってしまった。

 

 あるのは自作して立てた住民達の墓……それだけだった。


 マインはいつまでも墓の前で手を合わせて祈っている。そんなマインを尻目にして俺は考える。


(……さて……どうするか……町にある物は全て燃えてしまっていた……資材も地図も食糧も船も……)


 まるでサクラ達が俺達を(俺の事は死んだと思ってるだろうけど)島に閉じ込めて殺そうとしているようだ。

 きっと実際その通りなんだろう、全てが入念に破壊され燃やされている。

 

(船は【シンザシス(合成)】でいかだでも造れば何とかなるかもしれない……食糧も島で採取した物を【インベントリ】に貯めておけばどうにかなる……だが、海図や羅針盤は造れない……方角がわからないと島を出るどころの話じゃないぞ……)


 実際にこの島に来る時には最寄りとされている大陸の港からでも7日以上の日数を要した。

 優秀な航海術も持っている大賢人の『ナイツ』を以てしてもその道のりは決して楽ではなかった。

 迂闊に海へ飛び出しても彷徨って死ぬだけだ、どうにかして大陸にたどり着ける方法を考えなければならない。


「………………ウルさん………ソウルさん?」

「…………え?…………わっ!」


 俺の名を呼ぶ声が聞こえて思案するのを中断すると、視界いっぱいにマインの綺麗な白肌が飛び込んできた。

 マインが俺の顔を覗き込んでいたようだ。俺は少し驚いて声をあげる。


「す……すみません……お声かけしても反応なさらなかったものですから……つい……」

「い……いや、ごめん。ちょっと考え込んでて気づかなかった、謝るのはこっちだ。それで……どうかした?」


 全てが白く、まるで祈っている姿を見ると天使のようで……そのまま何処かへ消えてしまいそうなマインではあったが、どうやら一旦気持ちの整理はついたようだ。表情が少し晴れやかになっている。


「ソウルさんは……これからどうなさるおつもりでしょうか……? ギルドの方へ戻られるのでしょうか……?」


 マインはそう言うと何やら複雑な表情をする。

 俺はこの町に来るまでの道中にマインの話を聞くと同時に自分の素性も話していた。なるべく嘘偽りなく……この町を燃やしたギルドの面々と同じギルドに所属している事……俺を殺したあいつとは同郷である事……そして荷物とされて棄てられた事を。

 唯一、【箱庭】の力だけは不思議な魔法という事で誤魔化した。

 どうやらマインにはハコザキの声は聞こえていないらしいし、経緯を話したところで【箱庭】が不思議な魔法であることには変わりはないから同じ事だ。

 だったら『この島に伝わる悪魔の伝承の通りにこの不思議な力を得た』なんて話さない方がいい。特に今は。

 

 俺は少し考えたのちに答える。


「そうだな……そのつもりだ。あいつらのした事は許されることじゃない、必ず罪は償わせる。個人的に恨みもある」

「………」


 俺がそう言うとマインは何かを考え込んでいるようだった。


(そういえば……ハコザキはずっと話しかけてこないな……? 何処か行ったのか?)


 「ハコザキ、聞こえるか?」


 …………………と、問いかけても応答はなかった。


(これからどうするかを相談したかったのに。現状は……航海に必要な方位を測る物と航海術を見つけるか造るかしない限り何もできない。

クラフトでそれらがどうにかなるかを聞いておきたい……確かこの島にはもう一つ……『要塞』があったはずだ。そこでなら何か見つかるかもしれない)


 ハコザキからの応答が無ければその『要塞』に行ってみるのもいいだろう。

 しかし、時計は無いが時刻が既に夕暮れを迎えようとしているのを水平線辺りで切れている雲間から差し込む橙色の光で確認できた。

 遺体を埋葬するのと瓦礫の箱化と回収に半日以上費やしていたようだ。


(今日はもう休むか……雨に濡れたし……マインもこのままじゃあ風邪をひく)


 そう思った俺は墓を掘る際に回収した町の床である基礎コンクリートのセメント材や町の石壁をアイテムスロットから取り出し、周囲辺り一面に並べた。

 それを見たマインが驚いている。


「……ソウルさん……? この箱は……一体何を……?」

「まぁ見ててくれ」


 そしてそれらを画一的に並べていく、まずは床一面……そしてそれを囲うようにセメント箱を壁状に積み上げる。高さは大体4ブロック、7~8メーターくらいあれば充分だ。これで簡易的な風よけになる『家』の外壁部分が完成した。

 あとは屋根だが、これまでに【箱庭】の『ちょっとした裏技』を見つけていた俺はそれを使ってセメントの屋根を完成させた。

 

 豆腐型の『壁家』が出来上がる、あとは換気のために壁箱を一つ消去していくつかの窓と入口をつくる。

 殺風景で何もないが、とりあえずこれで雨風は凌げるだろう。


「……………」


 マインはその作業を唖然とした顔で見ている、俺は出来上がった『箱家』に入るよう促して作業を続けた。

 家の中に仕切りを作り、外壁と隣接するようにしてセメント壁を並べて人一人分が入れるくらいの長方形の容れ物を造る、高さは箱二段分だ。

 セメント床では熱は伝わらないので一部分だけのセメントを消去して町で入手した『鉄板』を敷き詰める。

 そしてその中に事前に箱に貯めておいた雨水を入れる。


 一度外に出て先ほどの裏技を使う、それは『積み重ねた状態の箱の下の部分を消去すると乗っている箱は宙に浮いたままになる』というものだ。

 容れ物と隣接した壁の下一段目を消去する、壁の土台を削ったが裏技により家は崩れない。

 そして削った壁から続く容れ物の一段目を掘っていく、外壁から容れ物の鉄板の下まで外から続く空洞が出来上がる。

 あとは鉄板の下の空洞部分に木材を敷き詰め、松明で火をつければ鉄板は熱せられ……水はお湯となり地球で言う『かまど風呂』が出来るというわけだ。

 一応壁を一部削って空洞部分を天井まで繋げて排煙できる仕組みも造った。


「……………………すごい……」

 

 黙って作業風景を見ていたマインが口を開く。


(これで一応今晩は雨風を凌げるだろう、あとは食糧の問題だな)



 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る