第63話:ヴァルダザールの姦しきお茶会

 私が人ごみで精神をすり減らしながら何とか『喫茶ヴァルダザール』に辿り着くと、すでに五人は二階のテラス席で優雅にお茶を飲んでいた。

 私を見つけたカーラが「ルシアや! お~い!」なんて立ち上がって手を振るもんだから、周囲の視線が集まって最悪の気分になる。

 そそくさと逃げ込むように店内に入ると、クラシカルなメイド服に身を包んだ上品そうな店員が「いらっしゃいませ、お嬢様」と声をかけてくる。


「あっ……に、二階の……同席で……」


 メイドさんのいかにも上品な雰囲気に気おされ、私は人見知り全開になってしまう。


「リリスのお嬢様方の席ですね。ご案内します」


 しかし、そこはさすが高級店の店員だけあって、きょどった私にもしっかりと対応してくれる。

 私はメイドさんについて階段を上り、二階のテラス席へと向かう。

 セシリアおススメの『喫茶・ヴァルダザール』の店内は、白い漆喰の壁と黒い木の柱が調和した落ち着いた空間だった。

 壁には小さめの絵画がいくつかかけられており、魔術使いたちの集団があちこちで固まって優雅に議論を交わしている。

 二階は半分が吹き抜けになっており、テラス席は全面ガラスの壁から外に出たところに設けられていた。

 広い空間ながらテーブル数は一つと贅沢な仕様で、どこの椅子に座っても"魔女の散歩道"を見下ろせるようになっている。


「ルシア様! 遅かったので心配いたしました!」


 席に座ると、隣のソフィアがメニュー表を渡してくれる。


「ちょっと杖と綱引きしててね……あの、これお願い」


 私は当店おススメと書かれたカフェ・ベラートというコーヒーを指さして注文する。


「先に頂いていてすみません。ところで、時間がかかったようですが、ルシアさんの杖選びについてお聞きしても?」


「うん、聞きたい聞きたい! 実はルシアが来るまで、みんな杖のことは話さなかったからさ~! もうあたしも我慢の限界なわけよ!」


 店員が下がると、さっそくセシリアとアルサが杖について尋ねてくる。

 私はその勢いに若干圧されつつ、杖をホルスターから抜いてテーブルに置く。


「見事な艶消しの黒杖ですわね……作者は?」


「"六方秩序"のホルン・キューブリック。杖の名はメランコリア」


 私が答えると、アルサ以外の四人が「おぉ!」と驚きの声を上げる。


「え~、あたしだけ仲間外れ? 誰よ、ホルン・キューブリックって!」


「アルサさん……ホルン・キューブリックと言えば、理論魔術学、とりわけ"平行記述の安定性理論"で知られる大魔術師ですわ。一つのものに安定して付与できる魔術式を二つから四つにまで拡張させた革新的理論をご存じないのですか?」


「"平行記述の安定性理論"は知ってるよ! リリスの試験でも、三つだったけど付与魔術出たし! でも提唱者なんてマメ知識じゃん!」


 アルサの答えに、セシリアは深いため息をつく。


「ホルン・キューブリックの名は、魔術技術史では必修ですのに……試験範囲に存命の魔術使いが含まれていなくて幸いでしたわね」


「存命の魔術使いなら知らなくて当然じゃん~。あたし、試験に出ることしか勉強してないし! それよりルシアさ、綱引きってどんなの?」


「魔力を繋げて主導権を握り合う。勝てれば主になれる」


 私はメランコリアを手に取ると、その両端を指でつまんで引っ張る仕草をする。


「普通、杖は主の魔力を見定めるだけですが、そこまでするとは……随分と、負けん気の強い杖なのですね」


 博識なセシリアが興味深そうに頷いているところを見ると、"魔力の綱引き"は説明としてちゃんと通じているようだ。


(本当にあったことは言えないし、かといって嘘もつきたくないから、よかった……)


 領域や固有魔術の話は私の正体がバレちゃうからNGだし、ホルン老の物語もおいそれと人に話すような話ではない。

 だけど何の話もしないのでは、みんなおかしいと思うに違いない。

 そういうわけで、私は『キューブリック魔術具専門店』からこのお店に至るまでの道中で、それっぽいぼかした話を考えてきたのである。


(まあ、人ごみがイヤすぎるから、気を紛らわす目的もあったんだけど……)


「お待たせいたしました」


 そこで頼んでいたカフェ・ベラートが到着し、私の杖の話は何となく打ち切られる。

 わずかにミルクを含んだコーヒーは繊細な味で、飲み込むと舌の上に上品な香りが残る。

 冒険者時代に気つけで飲んでいた泥水のようなコーヒーとは、まったくの別物だ。


「綱引きか~、せやったら、うちもルシアに近かったかもしらんわ! "囁き"で火属性魔術使うたんやけど、この子、ファイアーロストにその都度吸い込まれてもうてな!」


 カーラがそう言って、赤土色で牡丹の意匠が入った杖をテーブルに置く。


「店内で目ぇ合った瞬間、ぜんぶこいつの仕業やって分かったんよ。そんで、お互いの魔力をぶつけ合ったらピッタリだったってわけや!」


「ファイアーロストさんは、お茶目な性格なのですね。カーラさんとは相性が良さそうです」


 ソフィアがそう言って、なぜかチラリとミーシャの方に顔を向ける。

 ミーシャはちょうどマカロンを口に含んだところだったが、ソフィアの動きに気づいて何故か噴き出しそうになっている。


「ソフィアのはどんな杖なん?」


 二人のやり取りにまったく気づいていない様子のカーラがそう言って、テーブルに身を乗り出す。


「私の杖はスクルドと言って、エルフ様が店長を務める不思議なお店『ヴァンダースナッチ魔術具専門店』で出会いました」


 今度はソフィアが、大理石のように滑らかな白杖をテーブルに出してくる。

 その杖身には青みがかった銀の波紋が走っており、店内の灯りを受けて夜の星のようにキラキラと光っている。


「何本か試した後、この子に辿り着きまして……手にした途端に光を発して、私の中に心地の良い魔力が流れ込んできたのです」


「ほぇ~、エルフなんて本当におるんや! 確かに、杖もいかにも神聖な感じするわぁ!」


「わかる! なんかオーラある杖だよねぇ、これ~!」


「エルフの杖、ですか……それもスクルド……」


 キャッキャッとはしゃぐカーラとアルサとは対照的に、セシリアは神妙な面持ちで顎に手をやる。

 多分だけど、八年前に失われた運命の姉妹杖のことを思い出しているのだろう。

 私もエルグランドの勇者パーティーにいた身だから、運命の姉妹杖の消息については色々とウワサを聞いたことがあった。

 とはいえ、どれも信ぴょう性が低い話ばかりで、やっぱり失われていると考えるのが無難だった。


(もしもソフィアのスクルドが本物なら、"眼"のことと言い、やっぱりこの子は何か巨大な運命を背負っている……)


 心の奥がざわざわと騒ぐ。

 魔眼程度なら私でもどうにかできるかもしれないけれど、運命の姉妹杖絡みとなると、事は世界の存亡にかかわってくる。

 私の力では、ソフィアに降りかかる災厄をすべて退けることはできないかもしれない。

 ラ・ピュセルに来る前は、ソフィアのことは師匠に丸投げしようと思っていた。

 だけど今は、私も少しはソフィアの面倒を見てもいいかなって思っている。

 ソフィアにはできれば幸せになってほしいし、理不尽に危ない目には遭ってほしくない。


(このまま何事もなければいい……スクルドが偽物か、あるいは本物でもウルズが失われたままなら、ソフィアは幸せに暮らしていける……)


 でも、悪い予感というのは大体当たるものだ。

 リリスに入ったら、私が強くなるのはもちろん、ソフィア自身にも早急に力をつけてもらう必要があるだろう。


(まあ、私に言われなくても分かってるだろうけど……)


 師匠を前に「強くなりたい」と宣言したように、ソフィアは自身の状況をちゃんと理解している。

 私が心配すべきなのはむしろ、ソフィアが自身に厳しくするあまり学園生活を楽しめなかった場合の方かもしれない。


(とはいえ、私自身も学園生活の楽しみ方なんて知らないけど……そこは、一緒に見つけていけばいいか……)


 少し前の私なら、そもそも学園生活を楽しむつもりなんてなかった。

 リリスは魔術資格のためだけに通う所で、余暇は自分の魔術研究にすべて当てることしか考えていなかった。

 だけど、こうやってみんなと買い物したり、喫茶店でお話しするのも悪くないって、今の私は思っている。

 もちろん魔術研究もしたいけれど、それだけじゃない選択肢を肯定できるようになったのは、きっといいことに違いない。


「セシリアさんの杖は、どのようなものなのですか?」


 私があれこれ脳内で考えているうちに、ソフィアの杖の話は終わっていた。

 エルフの店主の独特のオーラ、ワインセラーのような杖保管庫、ミミックへの試し打ち、杖との魔力の融合。

 話された内容はそれだけで、杖の詳細については触れられていなかった。


「わたくしの杖はこちらですわ。名はフェレス……祖母の生家から名付けさせていただきました」


 セシリアが自身の杖をテーブルに置くと、私以外の四人が目を輝かせて「おぉ!」と歓声を上げる。


「すっご、猫まみれじゃん! こんな杖もあるんだ!」


「これあれやろ、『キャットウォーク杖&猫専門店』の! ウワサには聞いてたけど、ホンマかわええなぁ!」


 それは炎のように赤く、様々なところに猫にまつわる意匠が彫られた杖だった。

 思わず触ってみたくなる可愛い杖だけど、正直セシリアの高貴なイメージとは似ても似つかない。


「ふふふ~、猫って可愛いでしょ~?」


 飛びつくように杖に顔を近づけるカーラとアルサの隣で、なぜかミーシャがどや顔をする。


(いや、あなたは猫じゃなくてネコミミ族でしょ……)


 私の呆れたような目線をミーシャは受け取り、「同じ同じ~」とこっそりウィンクしてくる。


「むぅ……ルシア様……」


 そして、そんな私とミーシャのやり取りに気づいたソフィアが目に見えて不機嫌になる。

 ミーシャに変な気はないってソフィアも分かってるだろうに、乙女心というのは本当に訳が分からない。


(……めんどくさっ)


 普段なら放置しておくけれど、今はせっかく美味しいコーヒーを飲んでいるところなのだ。

 ソフィアがこのまま不機嫌だとテーブル全体の空気だって悪くなって、心から美味を楽しめない。

 仕方なく、私はテーブルの下でソフィアの手をそっと握った。


「……っ! ルシア様……!」


 ソフィアはものすごく驚いたような顔をしてから、私の手をキュッと握り返してきた。

 その表情は太陽のように明るく、さっきまでの負のオーラはどこにも見えない。

 助かった、と胸を撫で下ろしつつ、いやそもそもミーシャが勝手にウィンクしてきたせいじゃんと、すごく虚しい気持ちになる。


(私は何も悪くないのに、なんでこんな苦労を……あぁ……カフェ・ベラートうま……)


 コミュニケーションの難しさに辟易している私をよそに、アルサがセシリアに「セシリアって猫好きなの? 肉球フェチ? あっ、猫嗅ぎ目的とか?」と質問を浴びせる。


「べっ、別に普通ですわ……それに、猫を嗅ぐだなんて、みなさんはそんなことをなさっているのですか?」


「えっ、嗅ぐよね? うちの地元の漁師町じゃ、猫嗅ぎだけが休日の娯楽だったけど?」


 アルサが同意を求めて私たちの方を見てくるが、「私は嗅いだことがありません」「うちも」「私も」「ボクを嗅ぎたいってコト~?」と見事に賛同者は誰もいなかった。


「マヂか……うっわ、絶対今度嗅がせるからね!」


 アルサが立ち上がって宣言するのを横目に、ミーシャが「にしても、みんなちゃんと買ってるんだね~」と自分の杖をテーブルに出してくる。


「ボクの場合は、マスラの香草焼きから出てきたんだよ~。すっごく大きなマスラでね、美味しかったな~」


 ミーシャが取り出したのは、海のような青さの小ぶりな杖だ。

 たしかに魚の中から出てきそうな色合いだけど、そんなウソみたいなことが本当にあったんだろうか。


「マスラから? そんなん、わた抜きん時に気付かんはずないやろ!」


「本当だって~! 肉の中に埋まってたんだよ~!」


「ならば人為的に埋められたのでしょうか……でも、一体なぜ?」


 セシリアがはてなと首を傾げて私の方をチラリと見るが、私にだって分かるはずない。

 肉の中に埋まっていたのだから、後から挿入されたか、魚と共に育つように最初から埋められていたのか。

 いずれにせよ、杖は明らかに人の手によるものだろうから、誰かが意図してマスラに埋めたのだろう。


(この程度の考察は、誰にだってできる……肝心なのは、どうしてそんなことをする必要があったのか、だけど……)


「何にせよ……その杖はミーシャさんと出会えたのですから、これも運命なのでしょうね」


「だね~、ボクとこの子……ポセイドンのポセちゃんは相性抜群なんだよぉ! なんで埋まってたかなんて、ボクと出会うために決まってるよぉ~」


 ミーシャは笑顔で杖に頬ずりしてホルスターに戻す。

 本人がいいと言うのなら、私たちがこれ以上考える問題でもないだろう。

 世の中には人知を超えた不思議なことがたくさんあるものだ。

 

(私の顔が良すぎるのだって、不思議といえば不思議だし……)


 五人まで杖の紹介が終わり、最後は自然とアルサに視線が集まっていく。

 アルサは「あたしもミーシャに似てるかも!」と元気よく頷き、ダークブラウンの杖を取り出してくる。


「本屋さんの人ごみから出たら、胸元にこの子が入ってたんだよね! タダだからラッキーだったけど、いつ入れられたのかも分かんなかったんだ~」


 蛇の意匠が施された杖は見るからに高級品で、どう見てもアルサの財力では買えなさそうだ。


「……盗んだんじゃないんだ」


 思わず本音をポロリと零すと、ソフィアとセシリアからハッとした視線が飛んでくる。

 一方、ミーシャとカーラは何のこと、ときょとんとした顔をしている。


「違うって! いや、あたしも盗めるなら盗みたかったけどさぁ! さすがに杖は本人と結びつきすぎてて無理だったわ!」


 アルサはあっけらかんと言ってから、「あっ、そういや話してなかったっけ!」とミーシャとカーラに向き直る。


「あたし貧乏でさ、ラ・ピュセル来てからスリで生計立ててたんだ! まっ、今はちょっとお金に余裕あるけどね。もちろん、これは合法的に手に入れたお金ね!」


「はぇ~、そうやったんか! スリで生活って、凄腕すぎるやろ!」


「怪盗アルサって感じだね~! ボクも素早いけど、さすがにラ・ピュセルで魔術使い相手にスリは怖いよ~」


 二人が目を輝かせて興奮する一方、ソフィアとセシリアはほっと胸を撫で下ろしている。


「……あっ」


 そこでようやく、私はソフィアとセシリアから向けられた視線の意味を理解した。

 二人はアルサの後ろめたいはずの事情について、意図的にミーシャとカーラに隠していたのだ。

 スリはれっきとした犯罪だし、花のリリス生がスリで生活していたというのは、入学取り消しになるレベルの重大事件だ。

 告げるべきはアルサの口からであり、他人がおいそれと口にしていいことじゃない。

 どうしてセシリアがアルサの素性について知っていたのかはナゾだけど、『フルードリス』で一緒にいたわけだし、案外私と同じくスリを仕掛けられて撃退した過去があったのかもしれない。

 とにかく、貴族出身の二人は他人への配慮に長けており、コミュ障無口の冒険者だった私は、世間体とか犯罪とかへの配慮がまったくできていなかった。


(冒険者時代はずっと黙ってたから、そもそも配慮する必要なかったんだけど……それに、冒険者って半分犯罪者みたいなものだから、スリとかはスられた方が悪いって認識だった……)


「あの、アルサ、ごめん」


 私はとりあえず謝ることにした。

 失敗したらすぐに謝罪しないと機会を逃すというのは、とりわけ師匠との旅の途中で幾度も経験していた。


「んにゃ、いいっていいって! ミーシャとカーラにはいつか話しとかなきゃな~って思ってたからさ! いいきっかけになったよ!」


 アルサはそう言ってくれるが、さすがにこれは私が悪い。

 今後リリス生として生きていくのだから、冒険者的な価値観は少しずつでも意識して直していく必要があるだろう。

 ただでさえ私は顔が良すぎるんだから、いらないことを口にして不評を買いたくはない。


「でもあたしってばラッキーだな~! あたしがスリ出身って知っても、結局みんな変わらないし! いい友達に出会えてよかったよ!」


 アルサが明るく言ってテーブルの面々を見渡せば、ミーシャとカーラも大きく頷く。


「あ~、ボクもそれ思った~! 獣人ってだけで嫌がる子、けっこう多いんだよね~」


「うちもや! ミュンヘル訛りの成金やって、マギカスコラじゃ舐めてくる奴おったからな!」


 三人の言葉に、隣に座ったソフィアが「私もです」と答えて目元の聖布に手を当てる。


「こんな風に目を隠していても、みなさん普通に接してくれる……私にとっては初めての経験で、すごく嬉しいんです」


 幸せそうにはにかむソフィアの心の内が、どういうわけか私にも伝わってきた。

 きっとソフィアは、この四人になら聖布の下を見せてもいいって思っている。

 災厄に巻き込んじゃうからしないだけで、驚きこそしても拒否されないって確信している。


(……なんで、言ってないことが分かるんだろう)


 ふと、いつか王都の宿屋で考えていた『恋のテレパシー』なんて言葉が浮かんできて、私は思わず首を横に振る。


(いやいやいや、ソフィアの方は知らないけど、私は恋とかしてないから! これはあれだ! 私はみんなより、ソフィアとの付き合いが長いから分かるだけ! "眼"のことを知ってるから推測できただけで……!)


 大混乱の脳内を治めようとコーヒーをズズズッと飲む。

 すると、顔を上げた拍子に、なぜか対面に座るセシリアが今にも泣きそうなほど感極まっているのに気付いた。


「お友達……わたくしの、お友達……」


 うわ言のように「お友達」と口にしながら、目を細めてテーブルの面々を眺めるセシリア。

 その姿は、誰がどう見ても友達ができて喜んでいるように見える。


(普通大貴族って、入学試験で見たフランツ公爵家のレベッカみたいに取り巻きを作るものだけど……そういえばセシリアは一人だったな……)


 そもそも、貴族のセシリアが、スリだと知っているのにアルサに道案内を頼むところからおかしいと言えばおかしいのだ。

 セシリアは三大魔術家の長女だし、美人で魔術の才能もある。

 私とは違ってちゃんと他人とコミュニケーションも取れるし、貴族的な配慮もできる。

 人間として、貴族として、セシリアはメチャクチャハイスペックなのに、取り巻きもいないし、スリにも普通に接している。

 貴族らしさと貴族らしくなさを持ち合わせる、セシリアってかなりの変わり者なんじゃないか。


(元S級冒険者って隠してる私が言うのもなんだけど……)


 私はセシリアをはじめ、テーブルを囲む個性的な面々をしげしげと眺める。

 ワケあり目隠し貴族、大商会の訛り娘、ネル=ネコミミ族のマイペース王女、変り者の大貴族、スリ、私。

 色々な身分や立場、運命を背負った者が、この場では同じ卓を囲って平等な立場でおしゃべりを楽しんでいる。


(友達、か……)


 辞書的な意味は知っているけれど、実のところ私は「友達」という関係性がどんなものなのかよく分かっていない。

 だけど、誰もアルサの言葉を否定しないあたり、私たちの関係性は一般的な友達というものに当てはまっているのだろう。


(ギルド長……私、なんか気が付いたら友達ができてたっぽいよ)


 無理すぎると思っていた同世代との付き合いだけど、思っていたよりも悪くない。

 リリスに入学してからも、ここにいるみんなとこんな感じの関係性を保てたらいいなと、私は自然にそう思うのだった。

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