第54話:それぞれの出会い ルシア編4/5 死領域

「——ここからは、命を賭けた、本気の喰い合い……ッ!」


 私は指を眼窩に突っ込み、目玉をぐるりと裏返す。

 そうして指を引き抜けば、真っ赤に染まった絵筆が二本。

 私はそのまま良すぎる顔に、細い首筋に、膨らみかけた薄い胸に、魔力の集まるへそに、子宮に、太ももに、鮮血の陣を素早く描く。


「"風よ、吹き荒ぶ風よ、績み、熟み、膿み、産み、生まれた海よ、荒神之絶壁に陽は砕け、巡る輪廻の輪を開き、百八供養の鐘は鳴る、天地開闢かいびゃくの火は灯り、深遠の鴉が舞い降りる……"」


 私の詠唱が始まったのと同時に、荒野に風が吹き始める。

 これまでの激しい戦いの風とは異なる、あくまで心地の良いそよ風。

 それは私を囲うように吹き、長い黒髪をふわふわと浮かばせる。

 

『この期に及んで詠唱か! 我に魔術は無意味というに、懲りぬ奴よ! ならば望み通り死を与えてやるわ! かかれ、わらわの死の軍勢よ!』


 降伏勧告を私が突っぱねたことに気分を害したのだろう。

 メランコリアは怒りの声を上げ、スケルトンたちに一斉攻撃の指示を出す。

 無数の刃が、巨大な骨竜の尾が、魔術の弾幕が、小さな私を呑み込まんと襲い掛かってくる。


「"回れ、回れ、運命の輪よ、汝を弔う者はなく、汝をおくる者もなし"」


 だがそれらは、私に達する遥か手前で、塵となって消え去ってしまう。


『ぬぅ、不可視の壁か!』


「"三途の河原に魔は流れ、生死の業が裏返る、後に残るはただの一陣"」


 固有魔術の詠唱をトリガーに発動するようになっている超級魔術"荒神之絶壁こうじんのぜっぺき"。

 荒野に吹いたその風は一見穏やかだったが、囲いの中に侵入しようとするものに対しては容赦がなかった。

 高密度の正回転と逆回転で、あらゆるものを砂粒以下にすり潰してしまうのだ。


『だがっ! いくら足掻いたところで、わらわの領域は無敵ぃ! そなたの魔術は無駄に終わるわぁ! "出でよ、死の軍勢"!』


 メランコリアは勝ち誇った態度を崩さず、消耗した分以上のスケルトンたちを呼び出していく。

 それと同時に、私の詠唱も完了する。


「"万有一切吹き消えよ、風葬・領域併呑"」


 ごそり、と私の髪の毛が抜け落ちる。

 ずるり、ずるずる、私の皮膚が剥がれて剥ける。

 どろり、どろりと私の血液が流れ出し、ぼとり、ぼとぼと臓物もまた零れて落ちる。

 ほろり、ほろほろ、ほろほろり。

 筋肉と神経が引き伸びて、繊維となって宙に浮く。


『なんだ、それは……なんだ、その魔術はっ!』


 およそ魔術の常識では考えられない私の外見の変化に、メランコリアは驚愕の声を上げる。


「これが私の……"死領域"の、本気の姿」


 心臓だけをその内に残し、ついに私の全身は骨となる。

 筋肉と神経の繊維によって開かれた皮膚は翼となって、私の肩甲骨から伸びていく。

 臓物たちは腸を基礎にした円形の光背となって背後に浮かび、足下の血の池は生きているかのように不気味にうごめく。

 脳と目と舌を血で固めた王冠が、小さな頭蓋にちょこんと乗っかる。


『死、、だと……?』


 メランコリアは顎が外れんばかりに口を開いて、私を凝視したまま固まってしまう。

 私の外見のあまりの変化に、思考が追いついていないのだろうか。

 それとも、私の発する禍々しい魔力を前に、死の女王のくせに圧倒されてしまったのだろうか。

 何にせよ、ここまで来たらやることは変わらない。


「あなたにも見えるでしょう……私に刻まれた、数多の致死の領域が」


 全身に魔力を漲らせれば、私の骨のあちこちで、赤黒い血の魔術陣がギラギラと光る。


 平行記述の安定性理論によれば、一つの対象には四つまでしか術式が刻めない。

 通常領域魔術はそのキャパシティの大きさと複雑さから、人間丸ごと一人を一塊と認識して術式を刻む。

 すなわち、普通の人間には、一人最大四つまでしか領域魔術は習得できないはずなのだ。


 しかし、私の全身骨格には現在、領域に関する術式が百と七個も刻まれている。


 本来であれば不可能なこの状態を可能にしているのが、私の固有魔術、"風葬・領域併呑"だった。

 原理はシンプル、ソフィアの手枷にまとめて反転術を施したのと同じく、私の固有魔術は"領域"という魚を専門に呑み込む巨大なバケツとなっているのだ。


 敵の領域に『一、喰らいつき』、『二、圧縮し』、『三、定着させ』、『四、再現する』。


 これが私の"風葬・領域併呑"に付与されている四つの効果。

 そして、"ルシア"ではなく、"ルシアの骨"を刻む対象を設定できるため、全身二百六本ある骨に、こうしてまとめた領域を一つずつ刻むことができるのだ。

 圧縮したおかげでキャパシティの問題も解決しており、一つの骨に四つの領域が存在できるから、二百六×四=八百二十四の領域魔術を、私は身体に刻むことができる。


 "死領域"という二つ名の本当の意味は、死の領域を操る者……ではなく、領域魔術にとっての死神という意味なのだった。


「ちょうど大腿骨が空いているから、あなたはここに刻んであげる」


『大腿骨……』


 私が白い骨の表面を指でなぞると、メランコリアは呆けたように私の左足の付け根辺りをぼんやりと見つめる。

 やはりまだ衝撃で思考が停止しているらしい。


「"風葬・領域併呑"、この魔術は領域を喰らう……この血の池が、あなたの大地を溺れさせるの」


 皮膚の翼でばさりと羽ばたき、私はメランコリアと同じ高さにまで浮かぶ。

 そしてパチンと手を合わせれば、ざわざわと蠢いていた足元の血の池が、待ってましたとばかりに四方に溢れる。

 それは赤い津波となって、触れたものすべてを呑み込みながら、どこまでも、どこまでも広がっていく。


「さあ、骨の軍勢を呼んで。これは物量戦……私とあなたの、魂の喰らい合い!」


 地上では、密集したスケルトンたちが盾を合わせて津波を押しとどめようとしている。

 スカルドラゴンはその巨体を駆使してせきとなり、分かれた水流をマギカ・スケルトンたちが弾幕で消そうとする。

 しかし、血の大津波の勢いは止まらず、白い大地はみるみるうちに真っ赤に染まって血の海となる。


(一見私の勝勢だけど、この大地がどこまで広がっているのかは分からない。それに、大地は抑えたけれど空は手つかず……。メランコリアの技術なら、血の池の上にスケルトンを呼び出すこともできるかもしれない……)


 私は油断なくメランコリアを注視し続ける。

 血の池の中、魔力によって守られた白骨の玉座に座るメランコリアは微動だにしない。

 ただひたすら、虚ろな眼窩に宿った炎で私を見つめて固まっている。


「……メランコリア?」


 そうして一分ほど緊張が続き、私はようやく何かがおかしいことに気が付いた。

 皮膚の翼を羽ばたかせ、警戒しつつメランコリアに近づいていく。


「何の罠か知らないけど……私には通じないから」


 すぐ目の前までやって来ても、メランコリアが動く気配はなかった。

 魔力感知で探ってみるが、こっそり魔力を練っている気配などもない。

 だけど、どう考えたってこれは罠だろう。

 私は光背から適当に肝臓を掴み取ると、メランコリアに向かって投げつけてみる。


「……あれ?」


 私の肝臓はべちゃっとメランコリアの顔面に命中し、そのままずるずると落ちて腰骨の出っ張りに着地した。


「お~い……メランコリア~?」


 メランコリアの目の前で手を振るも、瞳の炎は反応しない。

 何が何やら分からないけれど、どうやら気絶しているようだ。


「血の池が一気に骨を呑み込んだから、魔力が混乱したのかな?」


 白と赤のせめぎあいが続いている地上をチラリと見て、私はそんな予想を立てる。


「間抜けな奴……でも、ちょうどいい」


 このままメランコリア本体を攻撃しても復活されるだけなので、放置しておくのがいいだろう。

 気絶しているなら新しくスケルトンの軍勢も呼び出せないだろうし、ひとまず地上を全部呑み込んでしまおう。


「空のことは、後で考え——」


『——ルシア』


「くっ、やっぱり罠かっ!」


 突然、メランコリアが意識を取り戻した。

 がしっと手首を掴まれたため、私は咄嗟に胸骨に向かって前蹴りをお見舞いする。


『ぐぇっ!』


 直撃を食らったメランコリアは玉座にドスッと背中をぶつけ、前のめりに崩れ落ちる。


「軍勢を呼ばれる前に、狩ってやる!」


 私は両手に膵臓と脾臓を光背から持ち出して、破壊的な魔力を込めていく。

 さっきまでメランコリアは完全に気絶しており、攻撃の気配も一切なかった。

 それなのに、ちょうど私が接近したタイミングで覚醒して掴んできたのだ。


(どう考えても狙ってたとしか思えない……くっ、油断した!)


 魔力の込められた私の臓物は、普通にA級魔術くらいの威力はある。

 それだけじゃなく、直撃した相手の魔力を混乱させ、しばらく魔術の発動を阻害できるのだ。


『まっ、待つのだ!』


 メランコリアが私に向けて両の手の平を向けてくる。

 そのまま魔術を放つつもりなのだろうが、詠唱もない短時間ではせいぜいB級魔術を一発放つので精いっぱいだろう。


「私の内臓なら、ブチ抜ける!」


 このまま魔術阻害をぶつけ、混乱中に地上を制圧し切ってやる。

 そう思って私が臓物を振りかぶった瞬間、メランコリアは予想外の行動に出た。


『待って、いや、お待ちくださいルシア様ぁ!』


 バキッと骨の砕ける音と共に、なんとメランコリアは骨の足場に思い切り頭蓋骨を打ち付けて平伏したのだ。

 それこそは土下座。

 東洋に伝わる完全降伏の姿勢だった。


「……ルシア、様?」


 ありえない呼び名を聞いたような気がして、私は思わず聞き直す。 


『そうです! ルシア様! わらわの話を聞いてくだされぇ!』


 メランコリアは頭蓋骨を激しく足場に擦りつけ、手足も伸ばして軟体動物のようにぐにゃぐにゃと蠢く。


「……何の策略?」


 これまでの態度とはあまりにもかけ離れたメランコリアの行動が謎すぎて、私はどうすればいいのか分からなくなってしまう。

 

(とりあえず攻撃してくる雰囲気はなさそうだけど……っていうか、動きキモっ!)


 私はいつでも臓物を投げられるようにしつつ、奇怪な骨ダンスをするメランコリアを注視する。

 カクカク、ぬるぬる、いそいそ、駄々をこねる子どもみたいにメランコリアは地面で踊る。


『策略なんてありませぬぅ! わらわはただ……感動、感動したのでございますぅ!』


「話が見えないんだけど……」


『頭蓋骨ですぅ!』


「うわっ!」


 これまたいきなり、メランコリアはガバッと顔を上げる。


『ルシア様の頭蓋骨をぉ! わらわにどうか、どうか触らせてくださいましぃ!』


「…………は?」


 何を言ってるんだ、こいつは。

 意味不明すぎて、私はかくっと首を傾げる。  


『あぁ! お美しい頭蓋骨ぅ! わらわを見つめて、さげすんで下さる頭蓋骨ぅ!』


 メランコリアは私に向かってすがるように手を伸ばす。

 一瞬、攻撃魔術かと思って身構えるが、玉座から私のところまで骨の橋が瞬時にかかっただけだった。


『ルシア様ほどの美しい頭蓋骨は見たことがありませぬぅ! はぁぁぁ! その美しく窪んだ眼窩、頬骨の芸術的ライン、顎骨の見事な噛み合わせ……冥府の女神たるわらわの頭蓋骨でも、ルシア様の頭蓋骨を前にすれば取るに足らぬゴミでございますぅ!』


 メランコリアは骨の橋をずるずると張って来て、私の目の前でひれ伏して叫ぶ。


『どうかお慈悲をぉ! わらわ、ルシア様の杖になりますから! この領域も解除いたしますから、どうか! どうか触れさせてくださいませぇぇぇえ!』


 先程までの威厳はどこへやら、メランコリアは何度も何度も何度も頭を下げて頼み込んでくる。

 その滑稽すぎる姿に、私の戦意はすっかり削がれる。


「触らせてあげたら、ちゃんと私の杖になる?」


 確認のために尋ねると、メランコリアは『もちろんでございます!』と顔を上げて、指をパキンと鳴らす。


『たった今、わらわのスケルトンを土に返しました! 魔力の防御も取り払いました! 今のわらわは素、ルシア様に傷一つ付けることあたいませぬぅ!』


「……本当に解除したみたいだね」


 どうやら私の顔面は、骨格までも良すぎるようだ。

 アンデッドの美的センスは分からないが、本当に魔術をすべて解除しているのだからその言葉に嘘はないのだろう。

 さっき気絶していたのも、演技ではなく本気だったのだ。


(慣れてるっちゃ慣れてる展開だけど……まさか内側まで顔面が良すぎるなんてね……)


 師匠との旅でも、ラ・ピュセルの入国審査でも、入学試験でも、『フルードリス』でも、私の顔面の良さは何人もの意識を奪ってきた。

 しかし、まさか骨格までも良すぎるとは予想外だった。

 このまま戦っていても時間がかかるだろうし、メランコリアの懇願を受け入れるのが一番早く収まるだろう。


「はぁ~……それじゃあ、いいよ。触らせてあげる」


『うひぃぃぃい! ありがたき幸せぇぇぇえ!』


 許可した瞬間、メランコリアは弾かれたように起き上がり、私の頭蓋骨に正面から触れてくる。


『んぁぁあぁ! 思った通り、いや、それ以上に素晴らしいぃぃぃ!』 


 メランコリアは指骨をわさわさと動かし、気持ちの悪い手つきで私の頭蓋骨を撫でまわす。

 そして、自らの側頭部のくぼみを私の側頭部のくぼみにこすりつけて『んぁぁあっ!』と悶えながら嬌声を上げる。

 私にはまったく理解できない性癖だけど、これだけは言える。


「ねぇ、元聖女なのに、なんでそんな気持ち悪いの……」


『はうっ! その蔑んだ目っ! 最高でございますぅ!』


 メランコリアは私の尺骨をスリスリしながら喘ぐ。

 私の見立てでは、こいつは杖の芯材"堕ちた聖女の肋骨"に宿っている元聖女の残留思念だ。


 言い伝えに寄れば、五百年ほど前西方に、国を滅ぼすほどの疫病を鎮めた一人の女がいたのだという。

 彼女は聖女と呼ばれて慕われ、あらゆる階層の民衆を平等に慈しんだ。

 しかし、癒やしをその収入源とする教会にとって在野の聖女は邪魔でしかなかった。

 信心の問題で教会に服従しなかった女に、教会はせめてもの支援をしたいと謀って聖騎士の護衛を遣わした。

 戦場へ赴くことも珍しくなかった女は、これを素直に喜んだ。

 その後、とある町で疫病が流行っているというウワサを聞きつけた女は、聖騎士と馬で野を駆けた。

 そして道中で、女は聖騎士から辱めを受けた上で首を切られ、野ざらしで死んだ。

 その野は呪われ、アンデッドの湧き出る不毛の地と化した。

 聖騎士は任務後、精神に異常をきたして一族の者すべてを自らの手で殺害し、自身も燃える業火に飛び込んで死んだ。

 女の呪いは止まず、あらゆる地で皮膚が溶け落ちて骨が剥き出しになる疫病が流行った。

 教会は女を正式に列聖し、不毛の地でその亡骸を拾い集め、女の魂の安寧を祈った。


「メランコリア……いや、聖女ジャンヌ・ウル・フリューゲル。教会が回収し切れなかった肋骨の欠片が、あんたの正体でしょ?」


『その名前をご存じとは……はぁ~! さすがは我が主となるお方! 歴史にも造詣が深く……んぁぁぁあ!』


 メランコリアは私の腰にある腸骨のくぼみに自らの頭蓋骨をぴったりハメて喘ぐ。

 これで元聖女だというんだから驚きだ。

 もう本当に気持ち悪いんだけど、触らせてあげるって言ったから止めようがない。


「生前からそんなだった……わけないよね?」


 呆れ半分で尋ねてみれば、メランコリアは『心の内ではこうでしたともぉ!』と私の坐骨の穴に指を通しながら語る。


『聖女というのは己を殺して民のために尽くす者……しかし、聖女と言っても人間なのです! ですからその重度の抑圧を、個人のささやかな趣味で発散するわけでしてぇ……あぁぁぁんっ!』


 メランコリアは身体を後方に逸らせ、私の恥骨と自らの恥骨を正面からくっつかせて妖艶な声を出す。

 うねうねと気色悪いその腰使いは、聖女じゃなくて完全に痴女だ。


『んはぁぁぁあっ……わらわの趣味はぁ、カタコンベ巡りでしたぁ! 人骨の蒐集こそぉ、わらわの生涯の性癖でぇ! はぅぅ~、何と控えめで美しい剣状突起ぃ!』


 メランコリアは恥骨を合わせたまま、私の肋骨を撫でまわして身もだえする。

 さっきからずっと、メランコリアは明らかに性的な興奮を覚えている。

 快楽を感じる器官は見た目上一切存在しないように見えるが、そこはアンデッド特有の感覚が備わっているのかもしれない。

 私の方は骨を触られてるなーって感じしかしないが、心理的にはとにかく気持ち悪いので早く満足して杖になってほしい。


「カタコンベか……大概は地下にあるし、聖女なら死者を鎮めるのは仕事だからバレなかったってわけね」


『その通りでございますぅ! わらわは聖女の仕事の裏で、夜な夜な人骨と戯れていたのでございますぅぅぅう!』


 性癖告白が気持ちよかったのか、メランコリアはブルブルと震える。

 反動でカラカラと骨が鳴り、頭蓋骨ががしゃがしゃと不気味に笑う。


「……もういい?」


『そ、そんな殺生なぁ! まだまだ足りないでございますぅ!』


 メランコリアは頭蓋骨を一回転させながら私に抱きつき、鎖骨に下顎を何度も這わせる。

 はたから見たらスケルトン同士が取っ組み合っているようにしか見えないこのやり取りに、私はいい加減うんざりしてしまった。


「じゃあ、満足したら言って……」


 これ以上メランコリアと会話していても疲れるだけだ。

 私はこの"転元冥界"の分析に意識の九割を回すことにした。


『はひぃぃぃい! わらわの魔力が探られてるぅぅぅう! んぎもぢぃぃぃい!』


 メランコリアは私にぶら下がるように正面から抱きついて、腰椎に恥骨をすり合わせながら歓喜の声を上げる。


(師匠と言い、ソフィアと言い、メランコリアと言い、どうして私の周りには変にこじらせたような人ばっかり集まってくるんだろう……)


 顔が良すぎると、やっぱり色々苦労する。

 そんな当たり前のことを、私はしみじみと実感するのだった。

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