第4章:合格発表と魔女の散歩道

第42話:リリス魔術女学園合格発表

 合格発表日の朝早く、師匠は「お仕事があるから!」と急いで家を出て行ってしまった。

 残された私とソフィアは比較的ゆっくり、作り置きのサルビアントーストを食べて支度をする。

 これはハーブ入り卵液につけた食パンを焼いたもので、サルビア連合共和国の名物料理だ。

 他に、付け合わせのサラダとコーンポタージュ、剥かれたリンゴも用意されていた。


「いよいよですね」


 学園へと向かう馬車の中、ソフィアは緊張した面持ちで受験票を握り締める。

 ちなみに私たちの胸ポケットには、バラの香りの小袋が相変わらず仕込んであった。


「うん、いよいよ買い出し」


「その前に発表ですよ!」


 ソフィアは受験結果を心配しているようだけど、どうせ私たちは受かっているだろう。

 そんなことより、私は人ごみでの買い物がとにかく不安だった。

 ちょっと社交性を高めようと意気込んでいるせいもあり、いつも以上に落ち着かない。

 おかげで仮面の端っこを、つい無意識に指先で引っ掻いてしまう。


「……あれ、なんか馬車止まってる」


 やがてリリスの近くまで来ると、大量の馬車が止められているのが目に入ってきた。

 それ以上進みようがなかったので、私たちも馬車を降りる。

 周囲の歩道は、同じように馬車を降りて徒歩で女学園前の坂へ向かう魔女見習いたちで溢れ返っていた。


「そうか……合格発表も人ごみだった……」


 買い出しに対人ごみ用の心を持っていこうとしていた私は、予想外の混み具合にげんなりする。


「私がおそばにいますので、大丈夫ですよ!」


 そう意気込むソフィアに手を引かれ、私は喧騒の中を歩いていく。

 そして、女学園前の魔木が埋められた坂下までたどり着く。


「トネリコ坂が、通行止めになっていたのですね」


 そこから先は、受験生だけが通れるようになっており、左右に立っている係員に受験票を見せなければならなかった。

 リリスの方針として、受験結果をまずは本人が受け止めるということらしい。

 私とソフィアは受付を済ませ、トネリコ坂を上っていく。


「みなさん緊張した面持ちですね……」


「私は人が減って、ちょっと楽になったけどね」


 チラリと後ろを振り向くと、坂下では受験生の保護者や近所の人たちが馬車の横や上に乗って、坂を上る魔女見習いたちを眺めていた。

 ちなみに飛行も禁止のようで、晴れ渡った青空には箒乗りの姿一つ見当たらない。


「……さて、ここまで来たわけだけど」


 坂を上り切ると、正門前の「T」字路には大量の受験生がひしめきあっていた。

 背の高い正門は閉じられており、そのはるか上空に一軒家くらいのサイズはある白くて巨大な一枚布がふわふわと浮かんでいる。

 私はトネリコの木にもたれかかって、人ごみをやや後方から眺めながら発表の時を待つ。


「よく見たら、周りのお店の中にも受験生がいますね……たしかに、地上よりも良く見えそうですが」


「部屋を解放してるのは、魔術写真館に食べ物屋、魔術古書店……ここらのお店、合格発表と同時に仕事する気満々だね」


 どの土地に行っても、商人というのは商魂たくましい。

 よくよく見れば、他にも文房具店では無料配布のペンを用意されており、古書店は壁一面にセールのチラシを貼っていた。

 食べ物屋の店先では持ち運べる軽食が準備され、衣料店や布屋の主人はその手に計りヒモと定規を握って今か今かと発表の時を待っている。

 さらに、坂から横に入る路地にはカラフルな旗がヒモで渡され、建物の最上階にはくす玉がいくつも用意されている。

 人ごみはうざったいけれど、お祭りみたいな雰囲気はキライじゃなくて、待っているだけなのに何となく心が高揚してくる。


「それでは、時間になりましたので、第千○○一回、リリス高等魔術女学園の試験結果を公表いたします。合格者は正門横の通用口から受付の『専心館』へ入るように。不合格だった者は速やかに場所を開け、誘導矢印に従ってお帰りください」


 十五分ほどして、風魔術を使った拡声アナウンスが流れる。

 そして、校舎の方から箒に乗った魔女が五名、優雅に飛んできて布の周囲を囲む。

 受験生たちは魔女の登場にドッと湧き上がり、少し遅れて坂下の野次馬たちも叫び声を上げる。


「うるさっ」


 私は耳を袖で塞ぎつつ、白い布をじっと見つめる。

 魔女たちは顔を見合わせると、それぞれ手に杖や小刀を持ち、一斉に布に向けた。


「"聖なる光よ、これによりて汝の真実を示せ、トゥルーエスケープ"」


 五人の力ある詞によって白い布が光り輝き、その表面に黒い文字がじんわりと浮かび上がってくる。

 受験番号の早い順に左から縦に十名ずつ、横に十列。

 誰もが番号を探すため、一瞬だけ辺りが静寂に包まれる。

 私も手元の番号を確認し、該当しそうな列を目で追っていく。

 そして、左から四列目の真ん中あたりに、自分の番号を見つけた。


「あった。ソフィアは——ぐはっ!?」


「ルシア様~!!!!!!!!」


 隣を向いた瞬間、柔らかくて重たいものが私に思い切りぶつかってきた。

 そのまま後ろに倒れそうになるけれど、何とか右足を起点にぐるりと回る。


「ありました! 私、リリスに受かりましたぁ!」


「そ、それは、よかっ……うっ、ぐぅ……ッ」


 ソフィアはその豊満な胸を私の顔面に押し付け、魔獣でも絞め殺せそうな力で私を抱きしめる。

 そして、勢いのままに二回、三回、私を抱いたまま回転する。


「ありがとうございます! ありがとうございます! ルシア様と学園生活! ルシア様とリリスに通える!」


「そ、その前に、死ぬ……からっ!」


 最後の力を振り絞ってうめき声を出すと、さすがにソフィアも気づいたらしく、慌てて回転を止めて私を放す。


「あっ……すみません、ルシア様! 私、嬉しくてつい!」


「ごほっ、げほっ……はぁ、はぁ……はぁ……」


 私は膝に手をついて呼吸を整え、何とか顔を上げる。


「う、受付……行こっか……」


「はい!」


 辺りには喜びの歓声と落胆のため息、有頂天の奇声と悲しみの叫びが、ひっきりなしに響いていた。

 ある者は肩を落としてとぼとぼと左右の道に消えていき、ある者はガッツポーズをしてその場で踊る。

 ある者は膝から崩れ落ちて慟哭し、ある者はトネリコの木に抱きついて泣き叫んでいる。

 悲喜こもごもな正門前は、実にカオスな状況になっていた。

 それに加えて、くす玉の中身であるカラフルな花びらが風に舞い、楽師たちが路地裏で陽気な音楽を奏で、遠くでは花火まで上がっている。


「本当に、夢みたいです……あのリリスに、大好きなルシア様と通えるなんて……」


 ソフィアは受験番号と白い布を何度も見比べながら、弾むような足取りで歩いていく。

 幸せそうなその姿を見ていると、当然受かるから感慨もなかった自分の合格が、何だか嬉しく感じてくる。


「……ソフィア、おめでとう」


 恥ずかしいけれど、言うなら今しかない。

 私は通用口間近でソフィアに聞こえるギリギリくらいの音量でつぶやく。

 ソフィアは「えっ?」と振り向き、心底驚いたって表情で私を見つめる。


「ルシア様、今、おめでとうって……」


「えっ、うん……だって、おめでたいし……」


「ルシア様……ありがとうございます!」


 ソフィアは今にも泣き出しそうな声でそう言って、今度は絞め殺さないくらいの力で私をギュッと抱きしめる。


「ルシア様も、おめでとうございます!」


「……ありがと」


 私もソフィアの背中に軽く手を回して、その耳元でお礼をささやく。

 すると胸の奥が温かくなって、世界が少しだけ明るくなったような気がした。


「あっ、ルシアちゃんとソフィアちゃんじゃ~ん!」


 私たちが抱擁を解いて通用門をくぐろうとすると、後ろから覚えのある声が聞こえてきた。 


「ホンマや! 二人も合格したん? うちとミーシャもやでぇ!」


 振り返ると、『魔女の海百合亭』で出会ったカーラとミーシャの幼馴染コンビが、満面の笑みで近づいて来た。

 相変わらずカーラはミュンヘル訛りで、ミーシャは帽子をかぶっている。


「おめでとうございます! 私たち二人も合格しましたよ!」


 ソフィアとカーラは手を繋いで小さくジャンプしながら喜ぶ。

 ミーシャが「ボクたちもあれやっとく~?」と聞いてくるけど、私は「いい」と首を横に振る。


「にしても、あの日のメンバーが全員合格なんて、すごい奇跡だよねぇ~」


「いやホンマそれな! うち、絶対特記事項やわ。とりあえず十桁の掛け算を暗算して、その場で試験官さんの誕生日の曜日当てたりしたんよ。試験官の一人が算術講師でラッキーやったわ!」


 四人で教会のような外見の専心館に入り、受付の列に並びながら試験のことを振り返る。


「私も筆記は得意問題が多くて助かりました。占星学がメインだったらどうしようかと……」


「ルシアはどうやったん?」


「……別に、普通」


 グイっと来るカーラの勢いに押されつつ、私は何とか言葉を返す。


「カーラ、ルシアちゃんは人見知りなんだよ~。だから、もうちょっと丁寧に聞いてあげないと~」


「そうやったんか! え~、ルシアは試験の方、どないやったんですか?」


 微妙に的外れな敬語で聞き直すカーラだけど、勢いは結局全然変わっていない。


「だから、普通だって……」


「ルシア様は世界一優秀ですから! お話によれば、筆記の後半はまったく関係ない術式のアイデアを練っていたとか!」


 そこでソフィアがどや顔でよけいな情報を教えてしまう。


「ひぇ~、うちは見直す時間も取れんかったのにぃ!」


「ボクもさすがに本番でそんなことできる胆力はないなぁ~。ルシアちゃんすご~」


 二人に左右から尊敬の念がこもった視線を向けられ、私はいたたまれなくなってそっぽを向く。

 胆力とかではなく、問題が簡単すぎて暇になったという、本当にただそれだけのことなんだ。

 みんなだって、今のまま中等女学園の入学試験を受けさせられたら同じように時間を持て余すだろう。

 しかし、そんな弁解をしたところで、さらに「リリスの入試でそう言えるなんてすごい!」って言われるだけだ。


「あっ、窓口が空きましたよ!」


 ちょうどその時、四人分の手続き窓口の列がなくなった。

 私たちはそれぞれの場所に行ってドアを開け、簡易的な個室の中に入る。

 室内は小さな宿屋の部屋みたいになっており、正面の壁にガラス張りのカウンターがあった。

 左右の個室とは距離があり、壁の材質も固い石材であることから、新入生のプライバシーを守るため防音になっているのだと推測できる。


「合格おめでとうございます。ようこそリリス魔術女学園へ」


 受付前の椅子に座ると、ガラスの向こうに座った赤髪の若い女性がそう言って微笑みかけてくる。

 私はぺこりと頭を下げて、ガラスが一部半円形にくりぬかれたところに受験票を出す。


「ルシアさんですね。では、こちらの書類にご記入ください」


 カウンターに並べられたのは、試験結果表、入学同意書、受け取り確認書、そしてただの白紙だった。


「……これは?」


 入学同意書と受け取り確認書にサインした後、私は白紙を指さす。

 受付の女性はにっこりと微笑み、「リリスの定期新聞や学内雑誌に載るサインです」と答える。


「……つまり?」


「ルシアさんは今年度の首席でしたので、そのサインは様々なところで使われます。また、入学式では主席挨拶があります。よろしくお願いします」


「……ウソ、でしょ?」


 聞き間違いだろうか。

 主席、という言葉が聞こえた気がした。

 私が聞き直すと、女性はニコニコ顔のままで書類を指さす。


「本当ですよ。試験結果表を見てください」


「筆記二百/二百点、実技二百/二百点、面接百/百点、特記事項あり、合計五百/五百点……そんな……」


 そこには、まさに完璧な試験結果が記されていた。

 あんな形だけの面接で満点だなんて信じられないし、特記事項までつけられている。

 特記事項の中身までは生徒である私には開示されていないけれど、おそらく『顔が良すぎる』とかそういうろくでもないことだろう。


(最悪だ……また顔のせいで……)


「すごいですね、特記事項まで満点なのは歴代でも三人とのことですよ。あの、よかったら個別にもサインをいただけますか?」


 私の絶望に気付かず、女性は手帳を取り出して白紙のページを広げてくる。


「終わった……挨拶とか……無理すぎる……」


 私はその場に突っ伏して、頭を抱えてうめき声を上げる。

 身近な人との関係性から頑張ろうと社交に踏み出してすぐ、千人以上の前で挨拶をしなくちゃいけなくなったのだ。

 初めて武器を手にした子どもが大戦場へ向かうようなもの。

 当日はきっと一睡もできず、緊張しすぎて震えが止まらず、呼吸の代わりに嘔吐して、会場に着くなり失禁してしまうだろう。


「こんなことなら、もっと実技でミスっておくんだった……いや、筆記も半分にしておけば……うぅ……」


「だ、大丈夫ですか?」


 さすがに私の様子があまりにもヤバいと気づいたのだろう。

 女性が心配した顔で声をかけてくるが、大丈夫なわけがない。

 私は御影石の地べたにぶっ倒れ、両手足を投げ出してナメクジみたいにべろべろになる。


「ダメ……無理……人前に出る、だけでも、苦手なのに……挨拶……死ぬ……」


 ひんやりとした床が気持ちいい。

 ずっとここでこうしていれば、挨拶だってしなくて済む。


「ル、ルシアさん! 気をしっかり!」


 受付の女性は慌てた様子でカウンター横の扉を開け、急いでこちらにやって来る。


「ああ、こんなに汚れてしまって! ほら、こっちへ座ってください! ねっ、大丈夫ですから!」


 女性は骨が抜けたみたいになっている私を抱き起こすと、とりあえず椅子に座らせる。

 そして、私の服や髪についた汚れを、魔術を使いつつ素手で綺麗に払ってくれる。

 さすがにそこまでされると、私の意識も現実逃避からは引き戻される。

 とはいえ、絶望したままであることに変わりはないのだが。


「これでよし……あのですね、ルシアさん。人前がお嫌いのようですが、心配しないでください。主席挨拶は、あくまで生徒の自主性に委ねられたものですから」


 女性は私を掃除し終えるとその場でしゃがみ、私と目線を合わせて落ち着いた声色で話しかけてくる。


「……自主性?」 


「はい、つまり内容は自由ということです。他の長ったらしい祝辞と違い、名前を言って、形式的な感謝を一言述べるだけでも十分なのです」


「……それだけ?」


「はい! ようは形式ですよ、形式! 壇上で頭を下げて、名前を言えばいいんです!」


 女学園側としてそれでいいのかってセリフを口にする女性。

 とはいえ、嘘をついているわけじゃなさそうだ。

 千人の前に出て、名前を言って、頭を下げる。

 それなら私でも、死ぬほどがんばればやれないこともなさそうだ。

 死ぬほどがんばるのが、そもそも死ぬほど厭なんだけど。


「……ギリギリ、やれる……かな……」


「やれます! 大丈夫です! ホント、長ったらしい挨拶とかいらないんで!」


 女性は私を励ますような言葉をかけつつ、首を縦にブンブン振る。

 どうやら例年の祝辞や主席挨拶は相当に長ったらしいようだ。


「……やる、か」


 主席挨拶は私にとって、最初にして最大の社会的な試練となるだろう。

 ここさえ乗り越えれば、もう大勢の前に立つこともない。


 それに、これはある意味、私の良すぎる顔を大々的に周知できるいい機会かもしれない。

 この機に顔の良さを全校に知らせておけば、後でいちいち気絶されたり、驚かれたり、いきなり襲われたりはしなくなるはずだ。

 師匠の家で読んだ『イマドキ女子流♡会話レッスン』でも、女学園では大きなウワサや出来事ほど、すぐに廃れるものだと記述があった。


(ルシアは顔が良すぎるって定着すれば、それは当たり前のことになる……人間は慣れる生き物……私の良すぎる顔も、せいぜい一月もすれば飾ってある絵画くらいにしか思われなくなるでしょ……)


 私の良すぎる顔がみんなの意識に馴染むまでは、ソフィアに守ってもらえばいい。

 カーラとミーシャもコミュ力が高いから、できれば防波堤になってくれるとありがたい。

 とにかく早く鑑賞の対象になってしまえば、後は背景みたいなものだと思ってもらえるはずだ。


「迷惑、かけた……もう、大丈夫」


 私の心は決まった。

 受付の女性もそれを察して、「迷惑なんて。お役に立てて良かったです」と笑って、カウンターに戻る。


「では、サインをお願いします。普通に書いていただければ大丈夫ですので」


 私は促されるまま、白紙と手帳に『ルシア』とサインを書く。

 女性は「……やった!」と無邪気に喜ぶと手帳をしまい、キッと真面目な顔つきに戻る。

 そして、紐でまとめられた冊子と書類をカウンターに置く。


「こちら、入学式の日程と当校のパンフレットです。また、同封のラ・ピュセル全図には、当校の生徒が割引で使えるお店がすべて網羅してあります。今後のお買い物にお役立てください。他に、当校の指定制服のクリーニング券、リリス専用馬車の乗車定期、一年時の教科書リスト、必須道具リストが入っています。紛失した際は、この受付まで届け出をしてください。新しいものをご用意いたします」


 私はそれらの書類を受け取って、腰に下げた収納鞄に入れる。

 この鞄には空間拡張魔術が施されており、手のひらサイズの中にワイン樽一個分くらいのスペースがあるのだった。

 冒険者時代に某国の王室から献上された貴重品で、市場に出た場合、中金貨十枚から三十枚くらいで取引される品だという。


「それでは最後に、こちらをお渡しいたします」


 受付の女性は、恭しい手つきでテーブルの引き出しを開ける。


「……ロザリオ?」


 取り出されたのは、一目でミスリル製と分かる銀色のロザリオだった。


「はい。入学同意書にもありました通り、当校の生徒は在学中、常にこれを身に着けていなければなりません」


 同意書の文章を適当に読み飛ばしていた私だけど、そういえばあったなって顔でロザリオを受け取る。


「そのロザリオはミスリルでできており、大変頑丈かつ魔力を蓄える性質がございます。身につける方法は何でも構いませんが、ネックレスが一般的です」


 受付の女性は続いて、細くて品の良いシルバーチェーンを手渡してくる。

 私はそれをロザリオの穴に通し、首からとりあえず下げてみる。

 ついでだからと魔力を注いでみると、思った以上にぐんぐんと魔力を吸ってくれるのが分かった。


「いい品だね」


「それはもう。ゲル=ググイのミスリル鉱山製ですので、魔力変換効率は世界一です」


 誇らしげに頷く受付の女性。

 そんなすごい品を毎年百人に配布しているとは、さすがリリスはお金を持っている。


「入学に関して、何か質問はございますか?」


「……主席挨拶は、仮面つけたままでもいいのかな」


「えっと……私の方では分かりかねます。当日、主席挨拶までに専任の教員より指導があるはずですので、その指示に従ってください」


「わかった。ありがと」


「ルシア様の未来に祝福を。学生生活に不安なことなどございましたら、いつでも専心館をお尋ねください」


「ん」


 私は女性に軽く頭を下げて、受付の部屋を後にした。

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