第7話:大ピンチとギルド長からの個人依頼
*読みづらいので今回だけ一部数字の表記を変えています。
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「……で、話は変わるがエルグランドを出たらどこへ行く? やっぱりシスレーのいるラ・ピュセルか?」
「そうだけど」
「じゃあ移動手段は確保してあるんだろうな?」
「馬車で行こうと思ってるけど……なんで?」
隣国であるラ・ピュセルまで王都から歩いていくのはさすがに遠すぎる。
となると、安い乗合馬車か、行商人に便乗するしかない。
どちらもメチャクチャ揺れるからイヤだけど、背に腹は代えられない。
冒険者生活で馬車旅自体は慣れたものだけど、お尻の痛みは覚悟しないと。
「だがそれじゃ間に合わんだろう。あそこまでは馬車で5日はかかるんだからよぉ」
「えっ? だって追放宣言が有効になるのは宣言されてから7日後でしょ?」
「そうだよ。だからあと三日しかねぇんじゃねぇか。今日は3月24日だぞ」
「……えっ?」
私は慌てて書類を確認する。
追放宣言:七陽暦1777年3月19日0時
宣言効力:七陽暦1777年3日27日0時
「……完全にハメられた」
アン王女が私に追放を宣言したのは昨日、つまり3月23日だ。
だから、私としては今日も入れてあと6日間は大丈夫だと思っていた。
しかし、追放宣言が出されたのは本当は3月19日だった。
エルグランド王国の王都は国土の真ん中にある。
どこの国境へ行くのにも、馬車で最低4日はかかる。
馬車の運行が終了した23日の夜に、私に永久追放を告げれば、私が動けるのは最短でも24日朝になる。
そうなれば、私は確実に国内で27日を迎え、兵士に捕まり極刑となる。
「なんだよ、俺はてっきり何か考えがあってこんなギリギリまで残っていると思ってたのによぉ……」
「私は昨日追放って知らされたんだよ! アン王女の策略でしょ! 裁判所に抗議して……」
「いやいや、そりゃ無理だぜ。きっとアン王女は『私は19日に告げたわよ。"死領域"が忘れていたのが悪いんだわ』とか何とか言ってお前さんの過失にするに決まってる」
「……やっぱりヤッちゃうしかないのかな、あの王女」
「待て待て待て! 早まるな! んなことしてもお前さんの極刑は変わらんだろうが!」
「まあ、そうだよね……」
「はぁ……お前、意外と抜けてるのは最後まで変わらんな……昔のシスレーとそっくりだよ」
ギルド長は頭を抱える。
「さすがに師匠ほど抜けてないから。っていうか、どうしよう……」
このままじゃ何をしようが極刑は免れない。
正直、今まで生きてきた中で一、二番に焦る状況だ。
「これはもう逮捕覚悟で魔術を使うしか……」
私はいくつかの移動手段をダメ元で提案してみるが、それはぜんぶ魔術を使うため違法だった。
「はぁぁぁぁぁ……S級ってのはなんで冒険者辞めてまでオレに苦労をかけるかね……だが、ちょうどいいか」
ギルド長はまたも深くため息をついてから、真剣な面持ちで顔を上げた。
「なあ、死領域よ。オレが大丈夫な"足"を用意してやるからよ。代わりに一つ、仕事を受けてくれるか?」
「えっ、そりゃ3日以内に行けるなら依頼くらい受けるけど……でも私、もう冒険者じゃないよ? 大丈夫?」
冒険者資格のない者へ、冒険者ギルドから依頼を出すことは固く禁じられている。
「なぁに、俺個人からお前個人への依頼だよ」
ギルド長はそう言ってニヤリと笑うと、机の引き出しから一通の手紙と小鍋ほどの大きさの木箱を取り出した。
「これをラ・ピュセルの冒険者ギルドにいる"ストレンジャー"という男に渡してほしいんだ」
「なにこれ。スイーツでも入ってるの?」
私は立ち上がってデスクまで行くと、木箱を手に持って"鑑定眼"で調べてみる。
しかし、凍結系の魔術が内部に使われているだけで特に変わったところは見つからない。
しいて言えば、特殊な鍵がかかっているみたいで、開けようとしてもびくともしないってことくらいか。
「まあそんなもんだ。頼めるか?」
「うん、いいけど……」
「そんじゃ、依頼料ってことでこれも持ってけや」
ギルド長はそう言って、金貨が数十枚入った革袋を投げてよこした。
「こんなに?」
「なぁに、超過分は今回の件の慰謝料だと思ってくれればいい」
「じゃあちょっと足りないかな」
「言うじゃねえか、小娘が」
ギルド長はニヤリと笑いつつ握りこぶしを私に向けてくる。
「"死領域"……いや、シスレーの弟子よ。向こうに行っても元気でやれよ」
「言われなくても」
私は同じく握りこぶしを作って、こつんとギルド長のこぶしにぶつけた。
「あと、友達ができなくてもめげるなよ。そのうち何とかなるからな、落ち込むんじゃねぇぞ」
「と、友達なんて作らないから!」
私はさっさと荷物を持つと、「それじゃ!」と早足で出口に向かう。
そんな私の背中に、ギルド長の野太い声が飛んでくる。
「アルフィの風が吹いたなら、また会おうぜ」
「……うん、アルフィの風が吹いたなら」
私は振り向かず、ギルド長執務室を後にした。
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