第7話 お気に入りのセーター
「お気に入りのセーターってあるでしょ…」
パーツセンターの吉村さんが、休憩時間にお話ししてくれた。
10:30と14:30に10分間の休憩時間がある。
女性達はいつも食堂にみんな集まってお茶を飲みながら、お菓子を食べながらお話をしている。
たまに僕も小腹がすいたときなどはおじゃまして、お菓子を頂く。
今日はチョコレートでした。
「私が高校生の時の話でね…」
「はぁ…」
「着ようと思って探してもないのよ…」
「それは大変ですね…」
今日のお菓子は、あのアルファベットチョコだ。
食べやすいし、おいしい。
僕は個包装をむきながら聞いていた。
「去年まであったのに、お気に入りの赤いセーター、おかしいな…って思っていたのよ」
「そうなんですね」
「それでね、ある日さ、高校から帰ってくるときにてくてくって歩いていたらね…」
見つかったのかな…、それならよかったな…
「見たようなセーターがあったのよ…」
「ほぉ…」
「かわいいセーターだな…って見たら、私のだったの…」
「よかったですね」
「それがよくないのよ…」
女性のみなさん、お茶を飲みながら僕らの会話を聞いている。
「それがね、うちの畑のね…」
「はたけ…?」
「畑よ…畑」
「畑の…」
「うちの畑のなかの…」
「畑の”なか”ですか…?」
畑の”なか”って、セーターあるか…?
「『かかし』が着てたの!」
吉村さんの家は大きい畑に大きい田もある。
以前、インゲンをあげると言われて、インゲンの苗を頂いた。
「じいがさ、『もう着ないと思って』っとか言ってさ、かかしに着せたのよ!」
笑い声が食堂に響き、あまりのその声の大きさに隣の事務所から数人がのぞきにきた。
「かかしってそんないいもの着ているんですね…」
「今更脱がしてもしょうがないから、かかしにあげたわよ!」
*****
会社を退職する直前でした。
「これ、食堂に置いておくからさ、堀さんも少し持っていってね」
吉村さん、ダンボール箱を抱えてました。
そこから水道の蛇口のようなものが出ている。
「なんですか…」
「これいいよ…」
その箱は食堂に置かれ、任意にみなさん空のペットボトルを持ってその蛇口から黒い液体を注いでいた。
「この液に、ゆで卵を半日から一日漬けておくとね…」
「漬けておくと…」
「おいしい燻製卵ができるんだ!」
「本当ですか?」
やってみました。
卵と液をジップロックにいれてやりました。
おいしかったな…。
業務用の燻製卵の素らしく、数リットル入りの箱でした。
なんで業務用を吉村さんが持っているのかはよくわかりませんが、とにかくおいしかったです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます