第6話 侵入者

 ある日の夜、警報装置が反応したとの連絡がセンター長にあり、当然セコムさんの人が先に倉庫に行ったそうです。

 センター長、夜に車で行きました。

 でも誰もいなかったそうです。


 これ2度ほどあったのですが、ついに原因がわかりました。

 猫さんが、子猫といっしょに住み着いていて、夜に動いてセンサーに反応したのでした。


 倉庫で子供産まなくても…。

 猫さん達には引っ越しをしてもらい、その後は夜に警報が鳴ることはなくなりました。


 ヘビもいました。

 冬になると暖かい倉庫内で過ごそうと思うのか、ヘビさんもいます。

 ちり取りとほうきでなんとか茂みに帰ってもらいました。


 スズメも鳩も入ってきます。

 スズメはほぼ間違って入ってきます。


 鳩は意図的に入ってきます。

 安全なのがわかっているのでしょうね。

 倉庫のシャッターを閉める間際に入ってきます。

 シャッターを閉めかけているのに低空で来たこともありました。


 倉庫にこういった侵入者が入るのは非常に困ります。

 倉庫にあるのは“商品”です。お客様にお届けするものですから、汚れたりしたら大変です。

 速やかに侵入者には出ていってもらいたいのが本音です。


 スズメは数日も倉庫に入ったままだと倒れてしまいます。

 倒れた姿を見つけると非常に驚きます。食べないとだめなんでしょうね。

 鳩はゴールデンウィークくらいの間、倉庫内で何も食べなくても生きています。


 ある日、つがいの鳩が住み着きました。

 だいたいいつも同じところにとまっています。

 当然その下の商品は汚れますので、そこには置けません。

 非常に困りました。

 年末から年始の長期休み明けでも、倉庫を開けたその瞬間に飛び出していきました。

 現場から、

「なんとかしてよ…」

 と言われました。


 本格的に対策をしないと…。

 総務の近藤さんと僕はいろいろな業者を呼んで検討しました。


 忌避剤を使う方法。

 安くてすみます。鳩が嫌いな匂の薬とかで鳩さんに出て行ってもらうのです。

 一方で、倉庫の高い天井とか各場所に設置しますし、薬の期限があります。

 長く置いておくと当然効き目がなくなります。


 網を張る方法。

 倉庫の内側全部に網を張れば、鳩がとまれるところがなくなります。よく駅とか屋外施設とかでありますね。

 勿論、天井から壁、全面となると膨大なお金がかかります。

 設置のために大量の商品の移動も必要です。

 恒久的な処置となるとこれしかないです。


「無理だよな…」

 近藤さん。

「お金もそうですが、物や棚の移動だけで、気が遠くなります…」

 何千ケースの商品を移動するなんてね、難解なパズルだよ。


 そんな時、弊社の埼玉の倉庫の鳩対策をやった会社が来ました。

 実績があるのですが、茨城までお願いするのも申し訳なかったので。


「倉庫全面の網の設置しかないかな…」

 僕が言うと、

「まだ数匹ですよね…、あの2匹ですね…」

 業者さん、ちゃんと望遠鏡を持ってきてます。それで鳩を見てました。

「うん…」

 その日は雨が降っていて、鳩さんも早めの“帰宅”をしていました。

 倉庫は屋外に大きい庇があり、そこではトラックが数台、荷積みをしています。

 倉庫は雨の日でも作業できるように、このような大きい庇や、大きい移動可能なテント生地の屋根というか、やっぱり庇になりますが、それがあります。

 国道や高速道路の近くの物流倉庫を注意して見てみると、大きい倉庫から、これまた大きい庇が四方に延びていて、太い柱で釣っているのがわかります。


 今日は雨なので、その下でトラック達は窮屈そうに作業をしていました。


 業者さん、庇を見上げます。

 たくさんの水銀灯がついています。

 鉄骨がむき出しです。


「これに網張ればいけるかもしれませんよ…」

「ここだけで…」

「ええ、全面ですけれどね、この庇」

「いけるの…」


 お金は本社財務と近藤さんが交渉して工面し、休日のある日、高所作業車が来て一日にして大きな庇の全面に網が張られました。


「ここだけでいいのかよ…」

「金がねえからってよ…」

 現場からはいろいろと声がでるものです。実際にお金はないです。 


 さて、結果は…。


 鳩さんのご夫婦は引っ越されました。

 手品みたいでしたね。


「鳩って賢いんです」


 業者さん、見積り段階で僕に教えてくれました。

「絶食にも強いのはご存知ですよね…」

「それに帰巣本能も強いです。伝書鳩やレース鳩なんてそれを利用しています」

「多少の障害を乗り越えて巣に帰ってきます」

 それに苦労しているんだ、僕らは。


「本当は倉庫全面に網を張れば完璧です」

「そうだよね…」

「でも、作業的にも予算的にも難しいのが現実です」

「うん…」


「鳩…、近くの電線から直接には倉庫に入ってないですよ」


「え…?」

「慎重なので、一度あの庇にとまります」

「どの鳩かわからないけれど、そういえばいるね…」

「そうなんです、あそこを一度経由しています」

「へぇ…」


「庇にとまれなくすれば、おそらくうまくいきます」

「なるほどね…」

「それに、倉庫全面に網を張ることになったとしても、庇にも張らないとフンとか落とされたら意味がないので、僕ら業者としてはセットで見積もりしたいですし、庇も含めて設置をお願いしますから…」


「要は、段階的に設置したらどう…? 今回でだめだったら全面でやろう…、そうゆうことかな…」


「ええ、おそらく庇だけでうまくいくと思います」


「お金もさ…、安い方法で今回はやってみます。だめだったら段階的にやります。いっきにやったとしても、庇に網張らないと無駄ですよ…、そんな感じでお金とればいい…、そうゆうことだね」


「あの…、まあ、政治的なお話は御社におまかせします」

「うん、ありがとう、あとはメーキングして上にまわすね」


 結果として庇だけでうまくいきました。

 鳩の習性も少しわかりました。

 鳩さんご夫婦には悪かったですが、大事な商品ですので。

 困った侵入者のお話でした。

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