第12話 無理解

 「………お…」


 ……


 「…………おい…!」


 ベルはザン爺さんに揺らされていることに気づく。次第に視界がはっきりと戻る。


 「ベル…!大丈夫か…急に顔が蒼白になってたから焦っちまったぜ……」


 どうやら、数秒も満たないうちに思考が停止していたらしい。我ながら情けないと思ってしまった。


 「ここはもう敵の戦場と化しちまったんだ、気をしっかり持て」


 背中にパシッと叩かれた。気を取り直したのはいいものの、結構痛い…。手加減してくれた方が助かるとあとで言っておこう……。


 「あ、あぁ…。大丈夫だ…」


 なんとか平常心を取り戻し、取り繕う。


 「で、茶番は終わったか」


 未だに突っ立っていた人間が初めて口をした。全身が銀色に輝く甲冑姿をしており、それに合うような大柄デタラメな身長をしていた。


 「まさか、ゴブリンごときが言葉を喋るとはな、まだまだ俺に知らないことがあるらしい」


 なにやら、甲冑姿の男がブツブツつぶやきながらこちらを見る。その目には好奇心が映った。だが―


 (ざっと見て、2メートルはあるぞ、こいつ…)


 ゴブリンの低身長が組み合わせれば甲冑姿の男を見上げられるのかすら難しいと思うほどだ…。


 「てめぇだろう、ここぶっ壊したのをよぉ?」


 ザン爺さんの口調そのものは特にいつもと違いが感じられないが、明らかに怒気が含まれていた。


 「あぁ、そうだ。依頼要請を頼まれてな、ギルドからここを潰してくれとの要請が出た」


 ギルドとはあいつらの冒険者の集まりらしい。ここまで推測するとこの男は冒険者と見て間違いないだろう。


 「一つ聞きたいことがある。わしらはてめぇらに手も出していないし、関わっちゃいもない。なぜ、俺の同胞を殺した」


 「俺こそ一つ聞こう。」


 それは、事実本当に疑問に思っているようで―


 「なぜ、ゴブリンごときに慈悲を与えればいけないのか」


 それは明確な価値観の違いだった。いや―、ザン爺さんは怒りを抑えつつ、言葉の交渉を試みたのは受け取れる。だが、人間と魔物、これだけで明確な違いが生まれる。


 そして、男は続ける―


 「考えてみろ。お前たちは狩りをする際に慈悲を与えるか?」


 「かっかっ、んなもん。いちいち考えるだけで面倒だ」


 ザン爺さんは少しだけ笑う、だがその目は笑っていなかった。


 目の前からザン爺さんが消える。俊足を駆け抜けて男に接近した。


 頭の図中めがけて素早い蹴りを入れる。


 しかし―


 「ほう、中々の威力だ」


 男はたやすく、片腕だけでその蹴りを受け止める。まるで、飛んでいる蚊をはねのけるように、手を揺らした。


 (……こいつ、規格外すぎる………)


 集落をこの男一人で半滅状態にさせる力に十分納得させられたのだった…。









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