第13話 絶体絶命

 「…チッ。やはり簡単にくたばってくれやしねぇか…」


 ザン爺さんは一度距離を取り、間合いを図りながら口にした。


 「あいにくと、集落もろともの討伐要請、たとえ喋るゴブリンがいたとて、ゴブリンであることに変わりない。殺すまでだ」


 そしてザン爺さんはベルを見る。ゴブリン同士にしか通じる意思疎通で


『手ぇ出すな。後、絶対に俺の言うことを聞け』


 と一度だけこちらに視線を送り、再び視線をもとに戻した。


 今度は背後に周り、素早い拳を鎧めがけて殴る。だが、その男もただ棒立ちしているわけではない。それを最小限の動きで避けて、まるで読んできたかのように長剣を横に振る。


 ザン爺さんもそれをギリギリに避けた。だが、頬に微かに掠ったようでわすかに出血している。又、最初の不意打ちにやられた腕の原因もあって、下手に動き回ると怪我の傷が広がることを恐れ、思いのほか攻撃が発揮できていない。


コンマ数秒程度で思考を鈍らせていたザン爺さん。男はその隙を見逃すはずがなかった。目に見えぬほどの速さで長剣が音速的に踊り出す。素早い攻撃をやめることなく三連突きをする。


 二連続をなんとか躱せたものの最後の一撃が肩の直部に直撃した。すぐに距離を置き、


 「当たったか…。痛ってぇなぁ…」


 肩に直撃した傷を撫でる。


 だが、男はやめることなく、間合いを詰めてまるで怒り狂った闘牛のごとく攻撃を繰りだした。ザン爺さんも肩に深手を負ったのかさっきより動きがいっそうに鈍いように感じられる。体の所々に傷がえぐられる。


 ザン爺さんからは『手ぇ出すな』としか言われ、黙って戦いを見ることしかできなかった。無気力と力及びなさに悔しさを覚えるも脳は危険信号で鳴りやまない。脳がむやみに戦闘に入ることを拒んでいた。でも、何もできない苛立ちと不安が交互に押し寄せて感情が複雑になっていた。


 「ま…だ、だぁ!」


 ザン爺さんは自分に喝を入れるように大声を張り上げた。意識が徐々に朦朧となっているのが否応でも伝わる。だが、惜しくもその声は散っていく、限界まで体を酷使していたザン爺さんはその鈍い動きで―――


 「ザン爺さん!」


 ベルの声は届かない、男は改めて長剣を手にして、ザン爺さんの額の部分に狙いを定めたその時――――――




――――――――――――





――――――ウゴ―





―――ケ―




 ――無意識に危機感知能力が発動する。身体的筋力が速度に追いついていない、キャパシティが限界を迎え、脳が焼けるように痛い。それでも――


 ベル自身も気づかないほどの潜在能力が限界まで上げた肉体強化をさせ、男の懐に回り込み腹部を拳を入れた。


 ――――な、何?!


 男は森の中まで吹き飛び、周囲に砂ホコリが舞い上がる。


 「はぁぁ……、う、っぐ、ふぅ…」

 

 ――――呼吸をすることすら忘れ――


 


「………はぁ、はぁ、……何、…が、起きたんだ……」


 体中に疲労が駆け巡る。一瞬だったとしても限界の限界まで酷使した体がベルを必死に意識を暗闇に引っ張ろうとしていた。


 「だが、これは好機だ……。早く一緒に逃げないと――」


 「ベルッッ!ここに来るなって言っただろ!」


 「あの時行かなかったら……・ザン爺さんは死んでたかもしれないんだぞッ!」


 「ぐッ…」


 「だから、逃げて――」


  それでも、この男は無慈悲にも森の奥から出てくる。


 「…まぁ、少し待ちたまえ、今の攻撃は少々痛かったぞ」


 鎧の腹部らへんにが拳を入れたせいか歪んでいるのが伺える。確かに当たっていたはずだ……。


 「……そろそろ、お遊びはここまでにしよう」


 男はさっきよりも一段いや、二段ととんでもない速度で接近してきたとき――


 (まだ本気じゃなかったのかよ……)


 自分たちがただもてあそばれていた事実に悔しく思い、


 (ここで終わり―か―――)


 最悪の三文字を予感させるよのだった。

















 


 

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