第11話 覚悟

 「ベル、おめぇさんに頼みがある」


 それはかつて見せたことない、怒りとも焦りとも見える。


 集落の方向の視線を変えることなく、


 「少しここで待って―


 「ちょっと待ってくれ、ザン爺さん。…俺も行かせてくれ」


 次の言葉を待つことなく、ベルは続けた。


 「俺だって、集落に少なからずお世話になっている。俺もついていく」


 ベルは無意識に力こぶを握る。なぜなら、直感に告げるこの危機感知能力はバカにならない、未だに『危険だ』とエラーが続くように繰り返していた。少なからず、足が震えている。だが、体が動かないということでもない。とっくに覚悟はできている。


 「っかっか…!随分とここに来た時との顔ぶりが変わっているようだな。安心したぜ」


 少しだけだが表情が和らいだようだ、と密かに安堵する。


 「だが、無理をするなよ?」


 と、一度真剣な眼差しで問いただされ、


 「あぁ、無茶はしないさ」


 「そうか。じゃあ、ついてこい」


 ザン爺さんの俊足じみたその足の速さでギリギリのところで食いつくベルであった。


 ◇


 その光景に絶句しざるを得なかった。


 (……………やはり慣れないな…)


 その光景に視線を逸らす。


 そこにあったのは、無数に広がる同胞の死体だった。初めてではないにせよ、この光景に吐き気を覚えてしまう。


 周辺は火事が起きており、そこらじゅうが黒煙の煙が立ち昇っていた。


 同胞の焦げた匂い、あと数分で死ぬかもしれない、わずかに聞こえる死に際の鳴き声、鉤爪かぎづめでえぐったであろう、その地面。ベルは一つ一つの出来事に見守ることしかできないでいた。


 「っち…!間に合わなかったか……!」


 ザン爺さんは悔しながらつぶやく。


 (もう少し、早く気づいていたら助かる命があったはずなのに……)


 ベルも悔しそうに仰ぐ。


 突如に―


 ザン爺さんは俺の背中をかばうように駆け抜けた。後ろを振り返ると、ザン爺さんの腕には小型のナイフが突き刺さっていた。


 「無事か…?ベル」


 「それは、こっちのセリフだって…!腕にナイフが…」


 小型といっても深く突き刺さっているようでその間から血が落ちる。だが、ザン爺さんは特にそれを気にした素振りはなく、深く突き刺さったナイフを引っ張り出し、その方向に向けて投げた。


 「こんなちいせぇナイフに俺がやられるとでも思わねぇことだぜ、ベル。それより、目の前の野郎に集中していろ」


 その方向に視線を定める。


 そこに立っていたのは銀色に輝く長剣を持っていた人間だった。


 (にん…げん……?)


 ベルはその正体に絶句したのだった―









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