第9話 語る
強く前に吹き飛んでしまい、当然止まることもなく…
「ぐはっ…!」
大きな木に強く衝突した。顔面にも衝撃を受ける。
「よし、ここまでにしておいてやるぜ」
(………どうせなら、もっと早い段階でそれを言って欲しかったぞ……)
内心で愚痴りつつ、ベルはよろめきながら立ち上がり、背中を擦る。
立つことにすら限界だ…。木に寄りかかりながらザン爺さんを見る。
(全然疲れてる様子が見えねぇ…)
むしろ、まだ足りないと顔が訴えていると気がしなくもなかった。
(本当に俺と同じゴブリンと思えなくなってきたぞ……)
「……ザン爺さん…、少しは手加減してくれ…」
「手加減だとぉ…?そんな甘っちょろな考えは今のうちに捨てて置いたほうがいいぜ。これがわしのやり方だからな」
拳をぶつけながら言い放った。
最近じゃ、なぜザン爺さんにここまでしてもらっているのかわからない。ベルはまだ何も恩返しをしてないのにも関わらず、紳士に(暴力的だが…)色々とこの世界のことを教えてくれる。
半年も共に生活してきて未だに何を考えているのか検討もつかない。だが、何もしないよりはマシだ。拾ってくれた形なのにザン爺さんを疑心暗鬼するのも悪いと思い、ここで思考をストップにかけた。
「この鍛錬を毎日行う。じゃねぇとこの世界に生きてけねぇからな」
そして一度目を閉じ、何か語るように目を開いた。それはベルが初めて見る真剣な顔だった。
「わしらゴブリンは他の魔物に比べて圧倒的に劣る。そして、あいつら、人間どもにすら集団で挑もうとも簡単に敗れるほどにだ。わしはある種の特殊な形で生まれたから、ついぞ他のゴブリンと比べて違うのかもしれない。だが、所詮ゴブリンだ。底が知れる。わしだって、強い魔物と戦えりゃぁ、死ぬだろうな」
ザン爺さんが強い魔物と対峙して、負けるというのを想像できないが、口に出さないでおく。
「わしは己の限界が嫌いだった。驚いたろうぜ、おめぇさんが部屋に入ったときの顔は傑作だった」
昔を思い出すように笑い、一息つく。
「あれはなぁ、わしの知恵の限界を突破するためにあるようなものだった。いかんせん、ゴブリンは知恵がない。あるのは集団で動くその本能だけだ。武器を作るのも本能だとよ」
(これは驚いた……。図鑑の中じゃゴブリンの武器は詳細不明と記述してる。あれはただただ本能だったのか……)
「マジか…」
「おう、マジだぜ。何度かゴブリンの仲間と意思疎通をしてきた。武器に対する疑問をぶつけてみたのさ、そしたらよ―
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