第8話 鍛錬

 ザン爺さんの言葉にベルは硬直する。


 「半年で大半の知識は身についたろう。もう言い訳は通用しねぇぜ?」


 「な、何言ってるんだよ…、ザン爺さん…。俺はまだまだだぞ…?」


 「何がまだまだってんだ…。言葉なんてわしは長く学んでこそに培ったもんなのに…。おめぇさんときたら、半年…、いや。三ヶ月で覚えられっか…」


 いつもは豪快で大雑把なザン爺さんが珍しく呆れ顔をしていた。


 仕方ないだろう…。何故か文字がすらすら暗記できたのだから。ベル自身ですらこの暗記力は天啓から授かったものなんじゃないかと疑いたいぐらいだ。


 ベルはある気になったことが思い浮かび、口にしてみる。


 「しっかし、ザン爺さん。この本たちは一体どうやって取ってきたんだ…?」


 異世界の本は元々高値であることは知っていた。ザン爺さんはゴブリンだが、ゴブリンぽくない。だが、ゴブリンであることに変わらない。


 そして突然ザン爺さんの態度が変わる。下手くそな口笛を吹いてそっぽ向いた。


 (おい……、目合わせろや……。なんだよ、そのあからさまに盗んできたみたいな態度は…)


 「え、えっふむ…。で、どうだ?わしが直々に鍛えよか?」


 わかりやすいぐらいに話をそらしやがったぞ…。まぁ、その態度でなんとなく予想がつく、無意味な追求はもうやめておこう。


 「はぁ…。ザン爺さんにお世話されっぱなしで申し訳ないけど、己を鍛えることにするよ」


 「かっかっか!その心意気、嫌いじゃねぇぜ!」


 そう愉快そうに笑い、


 「俺を…、鍛えてください!」


 ザン爺さんは一瞬で朝食を平らげ、二つ返事で承諾した。


 「おら、ついてこい!」


 ◇


 「はぁ…はぁ…、ふぅ………」


 「その程度かぁ!ベル!」


 ザン爺さんに鍛えられて一つわかったことがあった。


 (この人、急に人が変わった…)


 今、一対一という模擬戦をさっきからやらされている。当然、手練であるザン爺さんに叶うはずがなく、一方的にやられていた。


 体がそこらじゅう悲鳴を上げていた。外に出てない理由で体が身体能力が低下したということもあるだろう、だが最大の要因はそこじゃない。


 (この人……。どう見ても手加減してねぇ…)


 「何を余裕こいて、よそ見してんだ!」


 瞬歩ほどの速さで間合いに入り、回転して右の蹴りを繰り出した。


 幸いとして危機感知能力が無意識に働く、頬に掠るかする程度でぎりぎりに避ける。


 「ちとまだぁ余裕なら、どんどんいくぜぇ!」


 次は突然目の前から消えた。


 いや、正確には見えないほどに背後に周り、そんな瞬間移動じみた移動に対応出来るわけもなく、


 「あが…ぐはっ……!」


 背中を殴られ、強く前に吹き飛ぶしかなかったのだった。


 





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