第7話 猛勉強

 『読めるか?』


 ザン爺さんは椅子に座りながらしばらく硬直が続いた。次の一言を待つ。


 そして数分、やっと口を開き、


 「ほう、ほう…」


 と何度も頷き、


 (良かった……)


 と、やっと道が開いたと思った矢先に――


 「全く分からん」


 ………


(さ、さいですか……)


 しばらくの無言が続いた。さっきの頷きようは何だったのだ……。


 「おめぇさん、見たことない文字書いとるなぁ。」


 それは当然として彼は転生者だからである。ゴブリンではあるが…

 

 「まぁ、おめぇさんが思いついたアイディアは見事に粉砕されたってこった、残念やったなぁ、かっかっ」


 ザン爺さんは笑いながら背中を向け、手を振りながらどこかに行ったのだった。


 しばらく、テーブルの本を睨みつける。ザン爺さんに助けられる義理が全く見当たらないんだが、どうせ興味本位なのだろう、あの爺さんの野郎、いつか鼻はへし折ってやると心の中で毒づいた。


 ◇


 あれから、半年が経つ。


 「んっ、がぁ……。ねみぃ」


 彼に名前を与えられた。


 名はベル。ザン爺さんは名前無しであることに気づき、名前を与えられたのだった。いわば、授け親のような立ち位置になってしまったザン爺さんは特に気にした様子はなく、軽く受け流した。


 半年の間、本が多いこの家は勉強に最適だったため、猛勉強を繰り返した。現実的にも、この世界を知り、言語を操るのはやって損はない。


 人間時代の勉強したものより遥かに濃い時間だったのだろう、と自信持って言える。


 「さっさと起きやがれぇ、ベル。今日は良いのを狩ってきたぜ、さっさと調理してくれー」


 ここだけの話、ベルの名前の由来は、ザンベルのベルから取ったらしい。なんとも雑な由来とも思ったが、案外ベルという名前に気に入っている。


 「んはぁ、わかってるよ。ちと待ってくれ」


 あくびをかみつつ返事をする。


 最近はザン爺さんの口調が移り気味になりつつある。同棲生活は末恐ろしいと思った。


 ◇


 「やっぱぁ、ベルが作った飯のほうがうめぇぜ…!いっつもどんな魔法つかってんだぁ?」

 

 「大袈裟だ、ザン爺さん。元の世界の知識があるから作れただけさ」


 前の世界では一人暮らしをしていた。一応は社会人だったが、あまりコンビニでインスタントで済ませようと思わず、買い物をして自炊をしていた。


 社会人になると、体調が崩れやすい、健康に気を使っているフシがある。


 「しっかし、ベル。おめぇさん、最近外に出てねぇだろ?わしが言うのもなんだがぁ…、本を読むのも程々にして、たまに外に出てみたらどうだ?」


 ザン爺さんにいきなり図星を突かれ、しばらく硬直したベルの姿であった。

 





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