第6話 書物

 どうやら泊まるところがないと爺さんに看破されたので、ついていくしかなかった。


 ◇


 爺さんの家は集落を出たところから数分もなかった。

 

 集落の中じゃないんかい…、とついツッコミを入れたくなる。当然、喋れないから無言を貫く以外ない。


 「ここだ。入れ入れー」


 そこに建っていた、いや―


 正確にはツリーハウスであった。大きすぎず、小さすぎずと外見は立派に作られていた。この爺さん……本当に何者なんだ…。


 中に入ると、何冊もの書物が塔のようにあちらこちらに散らばっていた。どこに寝ろというのだ。足元の本を読んで見る。そこに書かれていたのは――


 『男が可愛くなれば、女にモテる?』


 …………


 (………見なかったことにしよう)


 本を元の場所に静かに戻した。自分は悪くない、この場所にあった本が悪いと自分に言い聞かせた。


 爺さんは振り返った、が気づいてない。


 「適当に座れい。まぁ、座る場所ねぇけどなぁ、かっかっか」


 笑いながら何処かに行ってしまった。遠回しに突っ立ってろってことだろうか…。案外、優しくない爺さんなのかもしれない。


 (ん…?喋れないのに、なんで文字だけは読めるんだ…?)


 ふとそんな疑問が思い浮かぶ。こっちの世界なぞ何も知らない。だから文字が読めるのはおかしいと感じたのだ。


 近くにあったまた別の本を読んでみる。中身を開いたところ、本当に読める。ますます、転生の原因がわからなくなってきた。


 またもこの本は魔物の図鑑らしき本らしい。魔物の絵の横に事細かく詳細が書かれていた。本能的にゴブリンの記述を調べる。


 曰く―


 『ゴブリンは知性が低く、集団で行動をする。武器は槍。知性が低いのに、武器が作れる、その詳細は原因不明。森林に生息する。ゴブリンの核はそれほどの希少価値はない、狩るのに無意味だが、繁栄すると面倒なので定期的に狩ることが必要』


 と書かれていた。


 (……確かに最初に会ったゴブリンたちは武器を持っていたな)


 その他はそれほど重要な情報が記されていなかった。


 爺さんが戻っていく。何冊もの本を持ってきていた。分厚い本が10冊、よく持ち上げられるものだな……


 「こっちに椅子とテーブルがあるぜ。おめぇさん、来い」


 そう爺さんに手招きされる。背が低いのか、椅子に登ってから本を無造作に置いた。


 「この書物はこの世界についてだ、ありがたく読んでいきなぁー」


 爺さんは何かを思い出したように、そのスキンヘッドを掻きながら言った。


「そういやぁ、自己紹介がまだだったなぁ。わしの名前はザンベルだ。ザンでいいぜ」

 

 今度からザン爺さんと呼ばせてもらおう。前の人間時代の名前を使うわけにもいかない。今は名前無しだ。


 しかし、喋れないので無言になってしまう。


 彼はあることを思いついて、行動に出た。


 文字が読めるなら、文字が書けるはず、という暴論に出てみた。


 近くにあったペンを持ち、紙に文字を書いてみせて、ザン爺さんに見せる。


 『読めるか――


 








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