第2話 絶望

 彼の目から映し出されていたのは、あまりに信じがたく、平和の世界を生きていた彼にとっては現実離れした光景だった。

 

 (………、なんだ…、よ。この死体の数は………、)


 そこに広がっていたのは、ゴブリンと人間が交じり合う、血泥になっている残酷な光景だった。それはあまりにも、悲惨であり、思わず膝が震えるほどに、吐き気を覚えるほどに彼は後方に後ずさった。


 (…ここはまずい……!別のところに行かないと…)


 彼はその場から踵を返し、無我夢中に走る。


 (とにかく、安全な場所の確保が優先だ…、ここで隠れたとて掘り穴や木の穴にいても危険すぎる……!)


 多くの死体が転がっている場所にふみとどめたい人などいるまい。彼はとにかく、あの場から離れたかった。しかし…、隠れもせず走ったところで誰からも目に映らないわけにも行かず、


 「まだここにいる!取り逃がしのゴブリンがいたぞ…!」


 森によって、視界確保が悪い中、狩人らしき人がこちらの気配に気づき、大声をかけた。


 しかし、ゴブリン特有の危機感知能力が発動したのか、周囲に人が集まる気配を察知し、人がいない狭い通路先を瞬時に導き出したのだった。


 (よくわからないが……、本能がここだと示してくる…。逃げ切れるためにここに進むしかない…!)


 彼の能力が無意識に発動したことを知らず、本能だと割り切ってその通路先に道を走るのだった。


 そこで、彼は違和感に気づく…。


 (ここまで走っているのにも関わらず、あまり疲れないな……)


 彼の体の違和感に気づいたのか、そう思い浸す。混乱状態で走る回っているお陰で、気づくのに遅れたのか。体力、つまりあまり疲れている様子が見受けられない。


 だが、肩に直撃した矢が未だに痛む。頬に掠った傷に手を当ててみる。


 (あれ…?痛くない…。完治している………?)


 いくら触っても、そこに痛みなどなかった。これもゴブリン特有の耐性なのだろう、彼はすぐに納得したのであった。


 (しかし、どこに向かうべきか……)


 周りに気配がないと確認すると、ふとその疑問が浮かんだ。この先、逃げ切れたとしても、どこに向かうべきかわからない。


 (まず…、なんで人じゃなくてゴブリンなんだよ……)


 元の世界では、転生するならゴブリンじゃなくて人だ。なら少しぐらい文句を言いたくなるのも仕方ない。人に生まれ変わっていたら、状況など違っていたはずだ。


 彼は逃げ切れるために、そして森から出るためにひたすら無意識に危機感知能力を発動して走っていくのだった。


 







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