第41話
オリジナルソングはカバー曲に比べれば再生回数は少ないが、反応はかなり良い。
投稿サイトのコメント欄も解放しているが、そこにはリアの歌声への賞賛で溢れているのだ。
もちろん心ない言葉もあるが、それ以上に好きだと応援してくれる声の方が多い。
そもそも、そんな言葉に惑わされてしまうほど、リアもなつめも弱くないのだ。
SNSも開設してみた所、反響はかなりあった。
「ずっと待っていた」とすぐにフォローをしてくれたファンの人も大勢いた。
やはりみんな、雅リアの歌が好きなのだ。
活動名はハルフキ リア。
顔出しはしておらず、ライブなどもしていないが割とファンは付いていて、一年も立つ頃にはSNSのフォロワー数は3万人を超えていた。
長い髪は憧れのポニーテールにしているため、うなじがやけに涼しい。
まだセミロングほどの長さだが、ヘアアレンジをするには十分だ。
夏服のセーラー服を着込んだポニーテール姿で、なつめは彼女と出会って2回目の夏を迎えていた。
授業合間の休み時間に、後ろの席の女子生徒と何気ない会話を交わす。
「なつめちゃんは夏期講習受ける?」
「そのつもり。受験勉強嫌だなあ……」
昨年までなつめを「王子様」と読んでいた彼女とも、すっかり目を見て会話を出来る様になっていた。
去年の夏休み明け以来、徐々に王子と呼ぶ生徒は居なくなった。
コンテストでドレスを着たなつめをみて幻想が壊れたのか、夢から覚めたのかは定かではないが、リアの協力もあって、少しずつクラスメイトとも打ち明けていったのだ。
そして今は、こうして多くの生徒と気軽に話せるくらいには親睦を深められていた。
夏期講習のプリントを見ながらため息を吐いていれば、綺麗な声がなつめの名前を呼んだ。
「なつめちゃんお昼行こ」
手を取られて、ランチバックを片手に彼女と共に空き教室へ向かう。
ピンク髪の彼女とは今年も同じクラスで、王子様をやめた今でもあの場所で二人で食事をしているのだ。
「新曲の歌詞掛けた?」
「ごめん。実はまだで……」
「仕方ないよ。受験勉強忙しいんでしょ?」
今年受験生ということもあって、以前に比べれば作詞する時間が思うように取れない。
焦らなくて良いと言ってくれているが、なつめとしても早くリアの歌を多くの人に届けたいのだ。
「雅は卒業したらどうするの?」
「歌う。拾ってくれる事務所とかあれば良いんだけどね」
今のリアならそれも夢ではないだろう。
切ないバラード曲から、お洒落な曲調まで幅広いジャンルを網羅していることもあり、ハルフキリアの人気はますます加速しているのだ。
事務所にも所属せず、完全に無名の状態から万単位のフォロワーを獲得することは容易ではない。
「ねえ、ハルフキリアの新曲聞いた?」
「聞いたー、可愛い系なの意外だったわ」
「新鮮で良いよね」
廊下を歩いていればそんな声が聞こえてきて、つい聞き耳を立ててしまう。
二人で顔を見合わせて笑い合いながら、空き教室へとやって来ていた。
「あの子たち、雅の話してたね」
顔出しをしていないため、この世でハルフキリアの正体を知っているのはなつめだけ。
しかし、なつめの苗字の春吹とリアの名前を組み合わせているため、知り合いが聞けば一発でバレてしまうだろう。
壁際に座ってお弁当箱を取り出していれば、一つで結んだポニーテールの毛先に触れられる。
「なつめちゃん、髪伸びたね」
出会った当初はショートカットで王子様ぶっていたけれど、今はその面影はどこにもない。
怒られない程度に薄化粧をして、望んでいた自分の姿で高校生活を送ることが出来ているのだ。
「ポニーテール、可愛い」
「最近暑いから我慢できなくて」
「夏限定って感じでレア」
「雅は結ばないの?」
「巻き髪好きだから、降ろしていたい」
お洒落さんな彼女らしい理由が、どこか腑に落ちる。
ピンク髪に拘って、どれほど教師に怒られても自分のスタイルを貫くリアらしい理由だ。
「あと……今度さ、路上ライブやろうと思ってるんだよね。残り半年くらいで卒業だし……そろそろ顔出しても良いかなって」
少しだけ不安そうな声に、動かしていた箸を止める。
ゴクンと口に含んでいたおかずを飲み込んでから、彼女の言葉に耳を傾けた。
「けどやっぱ初めてで不安だから…なつめちゃんにも来て欲しいなって」
「当たり前じゃん」
ハルフキリアの晴れ舞台。
作詞をした者として、見たいに決まっている。
彼女と同じくらい、なつめもハルフキリアの活動を真剣に考えて応援しているのだ。
「SNSで告知はするの?」
「いや…やらない。初めて私の歌を聴いた人がどんな反応をするのか、見てみたいから」
告知をすれば宣伝になって、ライブ中も注目を浴びられるかもしれないというのに、何とも彼女らしい。
「そのうちライブハウスとかでも歌ってみたい
「絶対みにいくから」
「約束だよ?…もしいつか私がめっちゃ有名になっても、最前列のチケットは絶対なつめちゃんにあげるから」
どこか遠い未来の夢の話。
多くの人にリアの歌が愛されて、大きなステージで歌う姿が想像出来てしまう。
リアであれば、本当に叶えてしまいそうな気がするのだ。
「最前列じゃなくていい。最後尾でも…何なら会場に入れなくてもいい」
「でも……」
「代わりに、初めて作った曲は一番最初に私に聴かせて?雅の作った曲を私が作詞して…その曲を世界で一番最初に聴くのは私でありたいの」
小指を彼女の方に向ければ、同じく小指で握り込まれる。
子供のように指切りげんまんをしながら、ハルフキリアの羽ばたく未来を想像して胸を弾ませてしまうのだ。
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