第22話
その日も雅リアは空き教室に現れることはなく、教室で一度も声を掛けては来なかった。
日が空くほど、どんどん彼女との距離が遠ざかっていくようで、次第に焦り始めている自分がいる。
何に焦っているのか、どうして焦っているのか。
その答えが分からないからこそ、何とも言いようのない感覚に襲われているのだ。
帰りのホームルーム中、一枚のプリントが配られる。
ぼんやりと眺めていれば、一つの項目に目を見張る。
「来週の林間教室の班分けはこれでいくから」
2年生だけが参加する林間教室は一泊二日。
登山をして自然と触れ合うことが目的で、かなりキツイため、先輩たち曰く「最悪な行事」らしい。
近くの温泉施設で宿泊するため、それが唯一の癒しなのだ。
部屋割りと登山の際の班分けは一緒で、出席番号順に8人ずつで区切られて全部で5班に分けられていた。
春吹と雅という名字は同じ4班に分類されているため、一緒の部屋で寝泊まりするということになる。
「晴れていれば登山の予定だから、スニーカーとジャージ準備しておくように」
「雨降ったら?」
「勉強」
「どっちにしろ最悪かよ」
生徒の嘆きを無視して、要は済んだとばかりに担任教師がさっさと教室を後にする。
途端に室内は一気にざわざわして、林間教室への不満で溢れていた。
「登山とかダルいんだけど」
「まじで行きたくない」
「普通さ、海とかじゃないの?バーベキューとかのキラキラした青春は?」
そんな雑談には交わらず、さっさと教室を出て行くピンク髪。
人気者な彼女はいつも周りに人がいて、一人でいることは滅多にない。
話すなら今がチャンスだと、勇気を振り絞って彼女の後を追いかけた。
「……雅!」
話すのはおよそ一ヶ月ぶりだろうか。
ずっと避けられていたため、喋ることはおろか近くで声を聞くこともできなかった。
放っておけば自然といつもの関係に戻ると期待していたが、雅リアの方から関係を修復する気はさらさらないのだ。
「なに」
「その、この前のことだけど…」
「消したから」
「え…?」
「写真消したから、安心して」
一瞬何を言っているか分からずに戸惑ってしまう。
写真を消したということは、雅リアに脅されることはなく、彼女の掌で転がされることもない。
「……もう行っていい?これから補習だから」
「中間テスト、赤点取ったの?」
「勉強苦手だし」
なつめを一人廊下に残して、リアはさっさと歩いて行ってしまった。
一緒に勉強をしていれば補習を受けずに済んだだろうに、あんなことがあったせいで赤点を取ってしまったのだ。
黒歴史の写真はこれでなくなった。
もう、過去のなつめをネタに強請られることもない。
自分だって写真を消そうとしていたくせに、いざそれが現実になると酷く戸惑っている自分がいる。
ギュッと鞄の紐を握りながら、どうすることも出来ずに俯いてしまうのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。