第13話
メジャーで体の至る所を測ってもらいながら、採寸が狂わないようにジッと動きを止める。
あっという間におおまかなデザインは決まってしまったらしく、早速衣装作りのために体型のサイズを被服室にて測られていた。
体型が出る体操服を着ているため、まだ4月後半の気温では僅かに肌寒い。
「春吹ちゃん本当にスタイル良いね…」
「今ので最後ですか?」
「そう。これお礼ね」
アイスティーのペットボトルを受け取って、いそいそと長袖ジャージを羽織る。
「昼休みの時間にごめんね、作業が区切りいい所まで進んだらまた連絡する」
お互いの連絡先を交換してから、ペットボトルとランチバッグを手にして被服室を後にする。
次の授業は体育だったため、着替えずに雅リアが待つ空き教室へやって来ていた。
定位置である窓際の壁沿いにもたれ掛かった彼女は、既に昼食を食べ終えたのかつまらなさそうにスマートフォンで音楽を聴いている。
ピンク色の髪が太陽に照らされて綺麗だと考えながら、そっと肩を叩けば雅リアがこちらに気づいたようで耳からイヤフォンを外した。
「あれ…もう着替えたの?めっちゃ張り切るじゃん」
「楽しみで着替えた訳じゃないから。衣装作りのために、色々とサイズ測ってもらってたの」
あと20分で次の授業が始まってしまうため、大急ぎでお弁当箱を取り出していれば、右腕を強い力で掴まれる。
「聞いてない」
「そりゃあ、言ってないし…」
そもそも決まったのは昨日のため、知らなくて当然なのだ。
力強いが加減が分かっているためか、掴まれた腕はあまり痛まない。
「今日も来るのか分かんなかったから、先にご飯食べた」
「だって約束もしてないでしょ」
「連絡先」
「は…?」
「教えて」
当然断る理由もないため構わないけれど、彼女が一体何に拗ねているのかが分からなかった。
唇を尖らせて、先ほどから一向に目を合わせてくれない。
「…連絡先教えてくれないなら、もう歌ってあげない」
「え……」
彼女の歌声は唯一無二のもので、なつめはかなり虜になっている。
もっと沢山聴いていたいと思い、今日だって歌ってもらうつもりでいたのだ。
スマートフォンの画面に連絡先のQRコードを表示して、彼女に見せる。
どれだけ雅リアの歌が好きなんだと、それを痛感させられたような気がした。
「……そんなに私の歌好きなの?」
「自意識かじょ……」
いつもの口車には乗せられないと、噛み付いてやろうとすれば、リアの瞳が不安そうに揺れていることに気づいた。
こちらの反応を伺うように、だけどどこか期待するような眼差しでなつめの返事をジッと待っている。
普段と違う雰囲気を察して、否定せずに、茶化さずに、正直に答えた。
「……好きだよ」
ホッと安心したように、雅リアが照れ臭そうにはにかむ。
心底嬉しそうな表情は、いつもの生意気さが皆無で酷く可愛らしい。
そんな顔をするのかと驚きながら、この子にとって歌は本当に大切な存在なのだと気づく。
もし否定されたら酷く傷ついてしまうくらい、自分にとって大切で、宝物のような存在なのだ。
釣られるように、なつめの頬もジワジワと赤らみ始める。
そういう意味ではないとはいえ、リアに好きだと言ってしまった羞恥心が今更ながらに込み上げたのだ。
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