第3話


 新学年開始から2週間後にやって来た、ピンク髪の美少女転校生。

 そんなツッコミどころ満載の雅リアは、休み時間になればクラスメイトから囲まれていた。


 派手な髪色に、それがしっくりきてしまうほどの可愛らしい顔立ち。


 おまけにそこらのモデルより身長が高く、スタイルも良い。


 クラスメイトの興味を惹くリアに、皆楽しそうに声を掛けている。


 「……ッ」


 ちらりと見やって、楽しそうな光景が羨ましく思う。

 あんな風に囲まれなくとも、休み時間に話せる友達くらいはなつめだって欲しいのだ。


 僅か半日で雅リアはすっかり人気者に上り詰めてしまっていた。


 「その髪色地毛?可愛い、アイドルみたい」

 「染めてる。ブリーチ2回やってるからね」

 「えー、怒られないの?」

 「さっき職員室でめっちゃキレられたよ」

 「やば、うける」


 楽しげな笑い声が聞こえて来て、再びチラリと視線をやれば、転校生である雅リアの瞳と交わる。


 「……っ」


 先ほどと同じようにすぐには逸らされず、数秒間を置いてからようやく目線が逸れた。


 彼女の癖なのかとも思うが、話したこともない相手を数秒凝視するだろうか。


 今日初めてあったにも関わらず、彼女がなつめに何かを伝えようとしているように感じるのだ。




 学級委員長として職員室には度々訪れるが、いつもどこか落ち着かない。


 歳の離れた大人ばかりの環境にソワソワとしてしまうのだ。


 4限と5限の合間の昼休み時間。

 休憩中の教師が食べるカップのカレーうどんの香りに、先ほどから胃袋を刺激されていた。

 

 「転校生とは話した?」


 担任教師の言葉に首を横に振りながら、早く終われと心の中で呟く。

 

 さっさと空き教室にてお昼ごはんを食べたいところだが、担任教師からの呼び出しを委員長のなつめが断れるはずもないのだ。


 「今日の放課後、軽くで良いから校舎を案内してあげて欲しくて」

 「私がですか…?」

 「学級委員長として色々教えてあげてよ。あと…」


 確か今年で3年目の女性教師は、いつにも増してぐったりとした表情をしていた。


 酷く疲れたように疲弊してしまっているのだ。


 「転校生の身なりを…出来たらでいいから注意できないかな…?」

 「髪色のことですか?」

 「そう…かなりキツめに注意したんだけどずっとヘラヘラしてて…」

 

 転校初日に校則違反破りまくりのピンク髪で登校するメンタルを待ち合わせているのだ。


 クラスメイトとはすっかり打ち明けているようだが、教師陣からすれば雅リアは相当な問題児なのかもしれない。





 放課後を迎えても彼女の人気は相変わらずで、クラスでも派手で目立つ女子生徒数名に囲まれていた。


 可愛いと有名な彼女たちに囲まれても、雅リアが飛び抜けて容姿が整っているあまり一際目を引いてしまう。


 「リア、近くにカラオケあるからみんなで行こうよ」

 「行く。みんな何歌うの」

 「えー、アイドルとかあ」


 楽しげに談笑している彼女たちに申し訳なさを覚えつつ、転校生である雅リアの名前を呼ぶ。


 担任に頼まれた手前、形だけでも声を掛けておこうと思ったのだ。


 もう友達が出来ているようだから、あわよくばその子たちに案内して貰えば良い。そうすれば、なつめもさっさと帰れるのだ。


 「ちょっといい?」

 「王子だ…」


 先ほどまで大口を開けて笑っていた彼女たちが、しゅんとしおらしくなってしまう。

 さっさと前髪を直す様が、何とも女の子らしい。


 ぱっちりとしたリアの瞳が、ジッとなつめを見つめる。

 

 今まではクラスで一番身長が高かったため、こうして見下ろされるのは新鮮だった。

 

 「名前、王子なの?」

 「いや、春吹なつめ。学級委員長で担任から校舎案内するように頼まれたんだけど…友達が出来たなら、彼女たちに案内してもらう?」


 側にいた女子生徒に視線をやれば、パッと逸らされる。

 確か昨年もクラスは同じだったが、桃色に染まった頬を見る限り未だ見慣れてはいないらしい。


 「春吹…?いや、いい。王子が案内してよ」

 「けど友達が出来たなら…」

 「いいから、行こう。カラオケ明日でも良い?」

 「も、もちろん!王子待たせちゃダメだから早く行ってあげて」


 足早に女子生徒たちが去ったことで、雅リアと二人きりになる。

 近くで見ると、余計に彼女のスタイルの良さが良くわかる。


 なつめも165センチあって女子の平均より10センチ近く高いにも関わらず、それでも見上げないとリアの顔を見れないのだ。


 170センチは越えているであろう高身長。腰の位置も高いのか、足が長くすらっとしていた。


 「じゃあよろしくね、姫」

 「え…」


 信じられない呼び名に、驚いて目を見開く。

 しかし戸惑うこちらなんてお構いなしに、雅リアは平常心で欠伸をしていた。


 「いま、なんて…?」

 「…なにが?早く行こうよ」


 長い足が一歩を踏み出して、置いていかれないように慌ててなつめも足を進める。


 変わらぬリアの態度を見る限り、こちらの聞き間違いかもしれない。


 あまり深く考えないようにしているが、込み上げてくるモヤモヤを拭うことは出来なかった。


 

 

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