第135話 You're My Only Shinin' Star

 「嬉しかったといえば、お兄ちゃんの家に初めて行った時、合鍵をくれた事かな。

 私という女の子の存在を初めて認めてもらえた様な感じがして…。」

 

 「そんな事無いよ、初めから有希は綺麗で可愛い女の子だって、ちゃんと意識してた。

 ただ俺には高嶺の花過ぎたし、有希が俺を相手にしないだろうと思ってたんだ。

 だから俺は有希に相応しい男が現れるまでは側で支えようと思っていた、有希とペアリングを交換した時にキスをされるまでは。」


 「うん…、お兄ちゃんに私の事をもっと異性として意識して欲しくて…。」


 「…あれからも色々あったな、体育祭で白石が襲って来たり。

 あの時に初めて俺に対しての有希の気持ちをハッキリ聞いた気がする。」


 「今考えると、私殆ど告白してるみたいだったよね…恥ずかしいっ…。

 あの体育祭の辺りから、お兄ちゃんが凄くいい人だって周りの女の人に気付かれ始めちゃったんだよね…

 阿部先生と連絡先交換するし、ひかりちゃんには抱き付かれるし、菅野さんにはピアスを仕掛けられるし…。」


 「あの時、菅野が急に俺のストーカーになって…本当にビックリした。」


 「でもあのピアス事件があったから、お兄ちゃんは私に告白してくれたんだよね…?」


 「あぁ、そうだな…。

 それから黄金崎でエキストラして、ドラマの原作と歌のオファーが来て。」


 「今告白のところサラッと流したよね…

 それにお兄ちゃんは、真由ちゃんと連絡先の交換もしてたよね…?

 学園祭でも真由ちゃんに抱き付かれてたみたいだし。」


 有希が嫉妬からか俺の正面から抱き付いて拗ねた様に見上げて来た、可愛い。

 俺は有希の頭を撫でながら、

 

 「あー、大学合格したら真由ちゃんから有希に伝言を頼まれてたんだった。

 芸能界で一緒に働きませんか?って。

 真由ちゃんの事務所からスカウトの話があるみたい。

 有希はどうしたい?」


 「また誤魔化した…私は特にやりたいとは思わないな…

 お兄ちゃんはどう思う?」


 「有希は以前、色んな物を見たり色んな事を体験したいって言ってたよね?

 だから俺は有希のやりたい事を応援するだけ。」


 「うーん…じゃあ、真由ちゃんと色々と話してみてから決める。」


 「じゃあ明日会うだろうから、その時に話してみたらいいさ。

 …そして大学合格した後はお母さんに会いに行ったな。

 有希は今後お母さんを許せると思うか?」


 「分からない…でもいつか許せる時が来たらまた会えるかな…?」


 「あぁ、また会えるさ。」


 俺は暫く有希と抱き合っていたが、ジャンパーのポケットから片手で箱を出し、有希の背後に回して見えない様にする。


 「有希…話を戻すけど、ペアリングを交換した時に有希は言ったよな、大学に合格したら答えを聞かせて、って…。

 俺は本当は菅野のピアス事件の時に告白するハズじゃ無くて、有希の言った通り、大学に合格したら此処で…この場所で告白する積もりだったんだ…。

 だから、改めて言わせてもらうな。」


 俺は一旦有希から離れ、有希の前で、手に持っていたジュエリーボックスを開けて有希に中を見せた。

 中には星を模した青色に輝くブルージルコンと三日月の形をしたプラチナのペンダントトップが付いたネックレスが入っている。

 

 「このブルージルコンは12月の誕生石で、精神を安定させ、危険から身を守ってくれる石とされ、昔から光沢がなくなると危険が迫ると信じられていたそうだ。

 それに地球上でも一番古い鉱物と言われ、約44億年前に生成されたものもあるそうで、地球そのものの誕生が約46億年前と言われていることを考えると、地球の原始から、ずっと地球と共にあったんだ。

 だから俺もこの地球とジルコンの様に、ずっと有希と一緒にいられたらと思う。

 …付けてみるか?」


 有希は目を潤ませている。

 

 「…うん、お願い。」


 俺は有希の背後に回り、暗い中、なんとかネックレスを有希の長い黒髪ごと首に取り付ける事が出来た。

 有希はチェーンより内側の髪をたくし上げてサラッと風になびかせる。

 そして胸元でダイヤモンドの様に輝く透き通った優しい色のブルージルコンを手に取って眺めている。

 

 「…俺は1年前、此処に星を見に来た時に、沢山の星の中から、キミ…有希という名のただひとつの輝く星を見付けたんだ。

 俺はこんな仕事をしているから、万が一死ぬ事もあるかもしれない。

 それでも、こんな俺でもよければ、どうか結婚してもらえませんか?

 あっ…結婚を前提にこれからも付き合ってもらえませんか?」


 有希は笑顔でポロポロと涙を零している。

 

 「最後で言い間違うのがお兄ちゃんらしい…。

 はい…喜んでお受けします…。

 お兄ちゃん…真之さん、もう結婚しちゃおうか。

 そして2人の子供が生まれて、歳を取ってお爺ちゃんお婆ちゃんになって…

 死が2人を分かつ時まで、ずーっと一緒にいたいです。」


 俺はポケットからハンカチを取り出して、有希の涙を拭う。

 嬉し涙で良かった…。


 「俺は有希が今まで苦労した分、これから色々と自由にやって欲しいと思う。

 芸能界からもお誘いが来てるし、大学の4年間でやりたい仕事が見付かるかもしれない。

 でも大学卒業後、それでも結婚したいっていう気持ちが変わらなければ、その時に結婚しよう。」


 「…うん。じゃ、ハイ。」


 有希が抱き付いて来て、背伸びをして目を閉じる。


 「誓いのキスをして。

 大人オトナのキスを……。」

 



 そして2人の姿は重なり合い、夜の闇に溶けていった……。





 ブサイクな俺が夜空を見上げていたら……


 有希という唯ひとつの輝ける星を見付けた。





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