第134話 回想

 中華料理店から帰って来てケーキを食べた後暫く休み、明日の顔合わせに響かない様、日付が変わる前に大涌谷に有希と出掛けた。

 


 車を駐車させエンジンを切る。

 相変わらず誰もいない。

 イヤ、それが良いんだが。

 ここが夜中に賑わうなんて、そんなのイヤだ。

 有希と2人、車外に出て夜空を見上げる。

 

 「やっぱり寒いねー。

 …私、1年前は制服着て自転車で坂を登って来たんだね…ここに。」


 「…あの時、なんで制服を着てたの?」


 「……死んでも身元が判る様に…。

 あぁ、もう2度としないよ?

 そんな哀しそうな顔しないで。」


 有希は両掌で俺の両頬を包み込む様に触れる。

 寒さ対策のため、有希は手袋をしていた。

 直に触れて欲しかったな…。


 有希は手を下ろすと後ろ手に組みながら星を見上げる。


 「あれから色々あったね。

 ここでイジメの事話して、家の近くまで送ってもらって…

 あの時お婆ちゃんが、お兄ちゃんに手紙書けって言い出さなければ今度は先生にイジメられて、私は今こうして生きてなかったかもだね。」


 「…たられば言い出したらキリが無いけど、そうならなくて本当に良かったよ…本当に。

 あの時有希が俺の免許証の写真撮った時、住所一部隠してたんだけど、よく覚えてたね。」


 「あの時はお兄ちゃんが気付かなかっただけで、ちゃんと住所が全部撮れてる写真あったからw。」


 「あっ…そうだったんだ(笑)。」


 「イジメが解決した後お兄ちゃんから全然連絡が無いから、私に興味無いのかな…もう二度と逢えないのかな…と思って、勇気を出して連絡したの。

 私はもうあの時からお兄ちゃんが好きだったんだよ、気付かなかったでしょ?」


 「あぁ…、俺みたいなブサイクは相手にされるハズは無いと思ってたし、また来てねって絶対に社交辞令だと思ってたし、有希は俺の事嫌いだと思ってたからな…。」


 「お兄ちゃんはブサイクなんじゃ無くて、顔が怖いのもあるけど普段は表情があまり無くて、何を考えてるか解らない様に見えるんだよ。

 喋ればこんなにいい人なのに、見た目で凄く損してる。」


 「…昔からイジメられてたからな…

 コチラが何か反応を示すとイジメっ子は面白がってヒートアップするから…。

 それで俺は普段は無表情だったり寡黙になったんだと思う。

 それから警察官になって、かなり喋れる様になったんだ。」


 「でもそれは私にとってはとても良い事だったよ。

 …あっ、お兄ちゃんがイジメられて良かったって言ってる訳じゃ無くて、その結果、他の女の人の存在が無くて、こうしてお兄ちゃんとお付き合いする事が出来たんだからっ。」


 有希が俺の左腕に自分の右腕を絡めて腕を組んで来る。


「俺は本当にモテなかったからな…

 もう生涯独身だと思ってたよ…。

 チョコレートだって有希に貰えたのが最初で最後だし。

 あれは本当に嬉しかった…。」


 「良かったー、これからも毎年用意するからね。

 そうそう、最初といえば、箱根神社とか芦ノ湖周辺のお出掛け、私の初デートだったんだよ?

 本当は九頭龍神社に行きたかったのにお兄ちゃんは行かないって言い出すし…。」


 「そういえば有希が九頭龍神社にやたら行きたがってたな…

 何かあったの?」


 「九頭龍神社はね、縁結びのご利益で有名なんだよ。

 だからお兄ちゃんとお参りしたかったの。

 お兄ちゃん神社好きじゃ無いから帰ろうとするし…。」


 「あー、ゴメンゴメン。

 そんなふうに想っててくれたなんて、本当に嬉しいよ。

 あの時は俺だって初デートだったよ、だから湖畔の喫茶店に連れて行ったんだ。

 あそこは彼女が出来たら絶対にデートで連れて行こうと思ってた場所だから。

 あそこに有希を連れてった時は、もう幸せ過ぎて死ぬんじゃないかと思ったからな。

 でも有希はデートだなんて考えて無いだろうと思ったから俺は冷静を装ったけど。」

 

 「お兄ちゃんもそんなふうに想っててくれたんだ…嬉しい…。」


 有希は俯いて身体をモジモジとさせていた。

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