第132話 懺悔②

 「ちょっと待ってて、お母さんと少し話があるから、ここに居たくなければ少し離れたカウンターで待っててくれないかな?

 一緒に帰ろう。」


と店員さんを呼んでカウンター席を1席確保し、有希だけコーヒーを持たせてカウンターに移ってもらう。 

 そして俺は改めて桃子さんを正面から見る。

 桃子さんは困惑気味な表情ででこちらを見返してくる。


 「…西村さんと呼ばせていただきます。

 私はご覧の通り、こんな見た目だからイジメられたし、両親は病気で既に他界していません。

 暴行、窃盗、器物損壊…イジメは犯罪で、それに発覚しづらい…

 何故イジメっ子は捕まらないのか…イジメられっ子は只々ガマンしないといけないのか…

 そんな世の中がイヤで、少しでもよく出来ないかと私は警察官になりました。

 ある日、たまたまドライブ中に縁があって有希さんを見掛けましてね…

 後は有希さんが言った通りです、今は婚約者として彼女の側に居させてもらっています。

 今まで西村さんもさぞ苦労されたと思います、大変だったでしょう…。

 でも私は他人だから、苦しんだ有希さんの代わりにハッキリ言わせていただきます。

 …子供は親を選べない。

 逃げるという選択肢すら知らない無垢な存在です。

 だから、貴女は何があっても有希を一緒に連れて逃げるべきだった。

 きっと今回は、有希に会って謝罪したい、許されたいという気持ちがあったかと思います。

 が、有希は貴女を許せないと言った。

 それ程有希は辛かったんでしょう。

 その意を汲んでいただきたい。

 そして、自分は許されていないんだと後悔し、反省しながら今後も生きていってください。 

 もう同じ様な過ちを、二度と繰り返さない為に。」


 「…そう…貴方の言う通り…。

 私は自分のしでかした事を、自分が心苦しいからっていう理由で、あの子に許して欲しかっただけ…。

 しかもあの子を放っておいて、新しく家庭を作って子供まで産んで、あの子の知らない所で幸せに暮らしている…。

 なんて自分勝手な女なんでしょうね…

 有希が会いたくないって言うのも当たり前か…。」


 桃子さんは自虐的に笑うが、更に俺は話を続ける。


 「有希さんがもう会いたくないと言ったのは、有希さんなりの貴女への思い遣りだと思います、自分の存在が新しい家庭で幸せに暮している貴女の邪魔にならない様にと…。

 有希さんは本当に優しくて素敵な子です、私には勿体無い。

 でもあの子は、私がいいと言ってくれました。

 だから私はあの子を…有希さんを幸せにしたい。

 これからも私は陰日向かげひなたから有希さんを支えていきます、安心してお任せください。

 有希さんの代わりとはいえ、西村さんには大分厳しい事を言わせていただきました、歳下なのに偉そうにモノを言って、誠に申し訳ございません。」


 「貴方…大した男ね…

 まるで歳上の人と話をしているみたい。

 本当は歳はいくつなの?

 40くらい?」


 「……25です……

 初めてですよ、40に見られたの…

 今までの最高年齢は38だったのに…(泣)。」


 「あっはっはっ!

 大して違わないじゃないの!

 …面白い人…有希が好きになるのが解る気がする。」


 「まぁ俺の人生も色々とありましたし、仕事が仕事なもんで。

 大分同じ年齢のヤツよりかは達観している部分があると思いますがね。

 ……では、最後に。

 有希はさっき貴女の事を、許せないと言いました。

 なので、裏を返せば今後は貴女を許せる時が来るかもしれない。

 その時、有希がもし貴女に会いたいと言ったら、また会ってくれますか?」


 「勿論よ、私の娘ですもの。」


 「では俺の連絡先を消去しないで取って置いてください。

 有希が愛想を尽かして俺の事を捨ててなければ、結婚して幸せに暮らしているハズなので…俺が。」


 それを聞いた桃子さんは、涙を流しながら爆笑している。


 「ヒーッ、ヒーッ!

 あっ…貴方…、本当に面白いわね…、コメディアンの才能あるんじゃないの?

 ……ふぅ、私からも最後に質問していい?」


 「何なりと。」


 「貴方は酒乱かしら?」


 「違います。

 既に信子さんが確認済みです。」


 「……そう…お母さん…信子さんによろしくお伝えください。」


 「承りました。

 では、いずれお会いする時まで。」


 俺は3人分の料金を支払い、有希を連れて桃子さんより先に店を出た。


 それを見送った桃子は、


 「…顔以外は本当にいい男ね…

 あんな男を見付けられて、本当に良かったわね、有希…

 幸せになりなさい。」


と、ひとりごちた。



 車で有希を仙石原まで送る途中、有希が重い口を開いた。


 「……お兄ちゃん…お母さんと何を話してたの?

 あんなに楽しそうにして…。」


 「あぁ、聞くか?

 ボイスレコーダーで録音してあるケド。」


 「……お兄ちゃん、もうボイスレコーダー手放せないんじゃないの?」


 有希がジト目で俺を見ている。


 「有希が私をこんな身体にしたのよ?

 責任取って結婚して!」


 「いや…結婚はするけども…どうしちゃったの?お兄ちゃん…。」


 「イヤイヤ、本気で心配しないで!?

 俺、頭おかしくなってないからね?

 さっき桃子さんが、俺の事をコメディアンみたいって言うからさ…

 調子に乗りました、スミマセン。

 ボイスレコーダーはさ、婆さんが桃子さんの声を聞きたいかなー?と思ってさ。

 桃子さんと絶縁状態なんだろ?

 一応録音しておいたのさ。」


 「…お兄ちゃんって、本当に色々と考えてるんだね…凄い、尊敬する。

 好きー。」


 車内では座席が離れているので実際には寄り掛かれないのだが、有希は俺に寄り掛かる仕草をする。

 

 「俺も好きー。」


 俺は左手で有希の頭をワシャワシャと撫で回した。

 キャッキャと無邪気に喜ぶ有希。

 

 俺は今、とても幸せだ。

 

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