第128話 偶然の出会い
俺は自宅に帰る前に、折角箱根に来たからには大涌谷で星を見て行こうと思ったのだが、駐車場には高級そうな黒いワゴン車が1台止まっていた。
中に人影が見える、誰か乗っているのだろう。
残念だけど、自販機で飲み物でも買って帰ろうかな…
そう思って車から降りて自販機に向かうと、ワゴン車からスライドドアが開く音が聞こえたので振り返る。
中からスタイルの良い女性が降りて来て、コチラに歩いて来た……ん?
真由ちゃんか!
俺から声を掛ける。
「スゴい偶然だね、こんな夜中にどうしたの?」
「こんばんわ、本当にビックリ!
今日は実家に帰って来たついでに撮影の舞台になるこの場所を見ておきたいと思って来てみたら、真之さんが車から降りて来たので。
何か見覚えのある車だとは思ったんですけど、本当に真之さんだとは思いませんでした。」
「あー、そうか、俺の車は伊豆で見た事あるんだっけ、宿と堂ヶ島で一緒だったもんね。」
「です、です。
今日はどうしたんですか?独りで。」
「有希が今月大学の面接と論文の試験でね、差し入れした後邪魔にならない様に帰ろうと思ったんだけど、折角来たんだから帰る前に星を見ようと思って。
この間の学園祭は無事に帰れた?」
「はい、あの後ちゃんと仕事に行けました。
上着までお借りして、本当にありがとうございました。
でもすみません、今日は逢えたのが本当に偶然だったので、上着をお返し出来ません…。」
「気にしないでいいよ、いつでもいいから。
俺のウインドブレーカーが役に立って良かった。」
「そういえば真之さん、SNSで聞こうと思ってたんですが、レコーディングはどうなりました?」
「あぁ、無事に終わったよ、今は編集作業をしてるハズ。
12月の顔合わせの時にはお披露目出来るんじゃないかな。」
「そうなんですか、楽しみ!
早く聴きたいなぁ…。
あの…ところで、真之さんはこれから家に帰るだけですか?
他に何か用事は?」
「特には無いけど?」
「…ちょっと待っててくださいね。」
真由ちゃんはそう言ってワゴン車まで戻って行き、運転席の男性と暫く会話をした後、後部座席から大きなバッグを持ってコチラまで戻って来た。
そしてワゴン車は駐車場から出て走り去って行く。
「アレ?真由ちゃん、車は何処に行っちゃったの?」
「あー、この後私も実家に帰るだけなので、ドラマの原作者さんに送ってもらうからって言って、帰ってもらいました。」
「えー…まぁココから実家は近いみたいだし、全然送るのはいいんだけどさ…
未成年の女の子をこんな所に置いて行って、心配じゃ無いのかね、あの人…
えっと、マネージャーさん?」
「はい、マネージャーです。
原作者さんは警察官で、前回の学園祭でも守ってもらった、って説明したら大丈夫でしたよ?
それに早く東京に帰りたそうだったし。」
「あー、だからか…。」
「真之さん、ご迷惑をお掛けするついでに、ここで有希ちゃんと出会った時やチョコレートを貰った時の遣り取りと、その詳しい場所を教えてもらえませんか?
演技の参考にしたいので。」
「あぁ、いいよ。
チョコの話まで既に知ってるって事は、前田さんに聞いたのかな?
でもなんか恥ずかしいな、俺のプライベートが皆に筒抜けで。
初めてチョコ貰ったなんて、真由ちゃんからしたらそんな男、キモいでしょ。
あぁ、そういえば役者さんはイケメンだったっけ、イケメンならそんな初めてチョコ貰うなんて設定、台本では使わないか。
なんか自分で要らん事言って自爆しちゃったかも(笑)。」
「そんな、キモいなんてこと、ありません!
他の女の人に見る目が無いだけですよ!
真之さんは素敵な人です、尊敬してます!
顔だけの男なんかより、全っ然!
…あの…私、真之さんのこと、大好きです!
…アッ…人間として……。」
「あっ…ありがとう。
人間として見てくれて(笑)。」
「そんな、自分の事を妖怪みたいに言わないでください。
…ちょっと誤魔化し方がマズかったかな…私、こんなチキンだったなんて…こんなハズじゃ……」
何故かガックリとうなだれた真由ちゃんが、ブツブツと何か言っていたが、俺は深夜に未成年を連れ回しているのが誰かに見付かったらマズいので、手早く済まそうと思った。
でも取り敢えずその重そうなバッグを車に入れてもらおうかな。
真由ちゃんのバッグを俺が預かって車に入れ、それから説明を始める。
「じゃあ始めから説明するね。
俺はソコの駐車場の路面に寝転がって、夜空を見上げていたら…………………………。」
一通り説明が終わった後、有希と寝転がって夜空を見た場所で、星を見上げた。
すると横に並んだ真由ちゃんも上を見上げた。
「わぁ…綺麗ですね…。
周りが暗いから、星が良く見える…。あっ…」
真由ちゃんがフラついて俺の方に倒れて来た!
俺は真由ちゃんを受け止めると、俺の頬に真由ちゃんの顔がぶつかった。
「あっ…真之さん、ごめんなさい。
上を見上げてたら平衡感覚がおかしくなって…。」
「大丈夫だった?」
「…はい。…そろそろ帰りましょうか。」
真由ちゃんが何かソワソワしていたが、トイレでも行きたかったのだろうか、早く送ってあげよう。
「じゃあ、送って行くよ。
住所は知られたく無いだろうから、近くまでで良いかな?」
「いえ、全っ然知られても構いませんから、家の前まで送ってください。
逆に、家の中に入る前に知らない人に襲われたりしたら怖いので。」
「あっ、そう…。」
俺は真由ちゃんを車で実家の前まで送ると、真由ちゃんが玄関ドアを開け、ニヤニヤしながら俺に手を振って来たので手を振り返して、家の中に入るまでキチンと見届けた。
自宅に着いて車を駐車場に止め、家の中に入って先ず手を洗おうと洗面台の前に立って自分の顔を鏡で見ると、
「…うおっ!…ほっぺたにキスマークが付いてる…!」
…さては、あの真由ちゃんのソワソワやニヤニヤは、気付いてて言わなかったな…!
ヤラれた…!
でも良かったー、有希に逢った後で。
こんなの有希に見られたら、俺のせいじゃなかったとしても、どうなるか……怖っ!
………怖っ!
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