第127話 ギュッ…
夕方に有希の家に着いたので、門を婆さんに開けてもらう。
敷地内に車を止めて玄関の中に入ると有希が待っていた。
あんな事があって有希に逢いたくて来た為、暫し有希に見惚れる。
有希にはSNSで差し入れを届けてすぐ帰ると伝えてあった。
「…お兄ちゃん、何かあった…?
なんか様子がヘン…。」
「…有希には判っちゃうのかなぁ…。
スゴく有希に逢いたくなっちゃってさ、ガマン出来なくなって、差し入れなんて言い訳しながら本当は只有希の姿を見に来ただけなんだ(笑)。
受験勉強してる大変な時期なのに、邪魔しに来てゴメンな。すぐ帰るから、少しだけ有希の事、見てていいかな。
ジッと見てても変に思わないでくれ。」
俺が死にそうになったなんて有希に言ったら絶対に心配するし、勉強が手に付かなくなったら困るので、いつかは言うかもしれないけど、少なくとも大学に合格するまでは黙っていようと思う。
有希は真顔で俺の手を取り、家の中へと引っ張って行く。
途中廊下で婆さんとすれ違ったので、
「婆さん、ただいま。
たい焼きとどら焼きとパンを買って来たから有希と食べて。」
と婆さんに紙袋を手渡す。
「あ、あぁ、ありがとなぁ。
…どうしたんじゃ、一体…。」
コチラを見て不思議がる婆さんを廊下に置き去りにして、いつも俺が寝泊まりしている客間へと有希に連れて来られた。
有希は客間に俺を引き込んで扉を閉めると俺の方に振り返り、ギュッ…と抱き付いて来た。
「お兄ちゃん…何かあったのかな…?
それともこれから何かあるのかな?
でも大丈夫だよ、私はいつもお兄ちゃんの側にいるからね。
私はお兄ちゃんの前から居なくなったりはしないから、心配しないで。」
有希はそう言いながらも、ずっと俺を抱き締めている。
「あぁ…ちょっと仕事で色々あってな…
もう終わったから心配しなくていいよ、詳しく聞きたいならいつかは話すけど、受験が終わってからな。」
俺も有希を抱き返しながら、有希の首元の匂いをすんすんと嗅ぐと、更に大きく匂いを吸い込む。
猫吸いならぬ、有希吸いだ(笑)。
「ひゃっ!お兄ちゃん、何だかくすぐったいよぉ〜。」
と有希は首を
有希もすーはーと俺の胸の中で深呼吸すると、
「私もお兄ちゃん成分を補充したよ。
今日帰るにしても、晩御飯は用意したから食べてって。
それから、推薦の結果が出たら直ぐに知らせるね!」
「あぁ、ありがとう。」
俺は有希と客間を出ながら、やっぱり俺が居る事で有希に気を使わせるから帰ろう、と改めて思った。
俺は晩御飯をご馳走になりながら、たい焼きとどら焼きとパンの説明をする。
2人とも喜んでくれた様だ。
食後に少し居間で休ませてもらい、夜中近くに有希の家を出て、俺は大涌谷に向かった。
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