第125話 拳銃
11月に入った。
今月は有希の指定校推薦の面接試験等があるので、それが終わるまでは片山家には行かない事になっている。
俺は本人のプレッシャーになるから言わないが、有希なら間違い無く合格すると思っている。
あの子は頑張り屋さんだからな、心配はしていない。
今日は朝から夕方までの日勤で、交番勤務だ。
昼頃に自転車に乗って警らしていると、無線機から注意喚起音がピーピーと鳴った。
イヤホンに耳を傾けると、
『淀橋2丁目、マンションの2階通路において外国人の男が騒いでいる。』
という110番が入電したため、近くにいた俺は現場に向かう旨本署に無線で一報を入れ、マンションに向かった。
マンションの階段を2階に上がると、外国語で怒鳴っている男の声が聞こえる。
階段の踊り場から通路を覗き込むと、黒っぽい背広を着た中肉中背のアジア人の男が、とある室内に向かって語りかけている様だ。
室内からも外国人らしき女性の声が漏れ出ている。
ケンカか……んっ!?
男の左手には、リボルバー式の拳銃が握られている…!
これは…本物ならヤバいな…
俺は対銃器資器材を持って来ていない…。
男は室内の女と口ゲンカをしている様だが、閉め出されて中に入れないのかもしれない、ドアノブを右手でガチャガチャと左右に捻っている。
そして諦めて立ち去ろうとしたのか、階段方向へ
俺は見付からない様に一旦踊り場に隠れると、無線機に小声で、
「至急、至急、人声騒音の男が拳銃を持っている、至急応援を願う…!」
と応援要請をする。
どうする…一旦離れて応援を待つか…でもあの拳銃が本物であれば、男をあのまま外に出した場合、一般人を巻き込む可能性もある…もう時間が無い、覚悟を決めろ…!!
俺は通路に飛び出して男の左手を指差し、
「それは本物か!?」
と質問したが、男は俺の方に拳銃の銃口を向けようとしたので、思い切り男の方に踏み込んで男の左手を拳銃ごと掴んだ…!
男は何か叫んでいるが、何を言っているのか解らない。
日本語を喋りやがれ!
男が暴れたため揉み合いになりながらも、絶対に離すまいと拳銃を両手で握って銃口がこちらに向かない様にしていたら、この男はどこから取り出したのか、右手にも自動拳銃を握っていた…!!
不覚……!!
腰の辺りから抜き出したのか、俺の方から右手は死角で見えなかった…
俺は死ぬのか……
有希………!!!
有希の悲しんだ顔や笑った顔が、いくつも頭の中に思い浮かぶ。
俺の頭に突き付けられた自動拳銃は、カチカチと引き金を引く音が響き渡るが、弾丸は発射されなかった。
俺は啞然としながらも直ぐ我に返り、男にタックルを喰らわせたところ、男はうつ伏せに倒れたので両腕ごと上から乗ってマウントを取り、まず左手のリボルバーを手首を捻って奪い、出来るだけ遠くに床を滑らせて放った後、次に右手の自動拳銃を奪って同じ様に放った。
そして男の片腕を上に引っ張り関節を極めながら肩甲骨を片膝で踏んで男を動けなくさせ、大人しくなった後に、
「取り敢えず、公務執行妨害罪で逮捕する!」
と告げた後、手錠を掛けて応援を待った。
もし、あの自動拳銃から弾丸が発射されていた場合、俺は今生きてはいない。
今回はマジでヤバかった…。
理由はどうあれ、拳銃を持った男に独りで飛び掛かった俺は、上司からメチャクチャ怒られるだろうよ、イヤだなぁ…。
拳銃は科学捜査研究所、略して科捜研等に鑑定に出して、真正拳銃かどうか確認しないと銃砲刀剣類所持等取締法違反として罪に問うのは難しい。
遠くからパトカーのサイレンが聞こえ、段々と近付いて来るのが判った。
結論は、拳銃はどちらもホンモノだった。
あの時、どちらの拳銃にも実弾が満タンに装填されており、俺に向けて発射されていた場合、俺は死んでいただろう。
では何故、自動拳銃の引き金を引かれたのに俺は無事だったのか?
それは、自動拳銃の薬室に弾が装填されていなかったのと、安全装置が掛けられていたからである。
リボルバーは安全装置は無く、引き金を引けば弾丸は発射される。
もし男の左手に自動拳銃が握られていて、その手を俺が掴んだ場合、右手からリボルバーが出て来ていたら、俺はやはり死んでいただろう。
俺が無事であろうがなかろうが、兎に角ウチの上司にしこたま怒られた。
その後、あの男の家の捜索を行ったところ、更に拳銃が1丁と、覚醒剤のパケが出て来たそうだ。
ちなみに、警察官の拳銃には空砲が入っていると思っている人がいるが、空砲は入っていない。
何故なら、今回の様に威嚇射撃する
威嚇射撃は人の当たらない方向に向けて実弾を撃っているから、空砲と間違える人が出たのかもしれない。
今回、俺は死ぬかもしれないと思った時に、走馬灯の様に有希が頭に浮かんだんだが…
俺の心の中は、かなりの部分が有希で占められているのかもしれない。
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