第124話 二上ひかり
ボクはひとりっ子で、幼稚園も小学校も私立で共学だったけど、同級生の男の子は何かというとボクに絡んで来て、イジメられてるみたいで嫌だった。
子供ながらに、同じ学年の男の子って、子供っぽくて好きじゃない、どうせ一緒にいるなら女の子か、お兄ちゃんがいいと思った。
ボクは受験で中高一貫の小鳥遊学園女子中学校に合格し、新1年生として入学したある日のこと、登校中に物凄い美少女を見つけた。
…同じ女の子なのに、ひと目惚れと言っていいのかな…
ツヤツヤした黒い髪、完璧と言っていい程の整った顔立ち、スタイルの良さ…
なんて綺麗なんだろう…。
気付いたら立ち止まってその美少女が見えなくなるまでずっと眺めていた。
開いた口が塞がらないとはこういう事かと思った。
調べるのは簡単だった、学校内の凄い美人誰?って聞くだけで友達から答えが返って来た。
片山有希先輩…。
ボクはあの人の写真が撮りたい、撮ってずっと眺めていたいと思う様になり、写真部に入部した。
一眼レフカメラも親におねだりして買ってもらった。
有希先輩の授業の時間割り表を入手して、休み時間や放課後、球技大会、合唱祭、体育祭、学園祭、マラソン大会…
色んなイベントにカメラを持って有希先輩の姿を追った。
その写真をまず写真部の皆が見て、有希先輩のファンになった。
クラスメイトもその写真を見てファンになり、そしてあっという間にファンは増えていった。
写真を撮るにも印刷代が掛かる、有希先輩のブロマイドをファンに売って活動費にした。
いつの間にかファンクラブも出来上がり、ボクが会長に祭り上げられた。
でもファンクラブの活動は水面下で行われた、有希先輩に迷惑が掛かるから。
誰のファンクラブか有希先輩に判らない様に姫と呼ぶ事、有希先輩には直接会わない事、体育祭等の行事も直接応援しない事等を会則とした。
…姫は高2の2学期にイジメを受けた、会員にとって一大事だ。
だけど、情報を入手した時には既にイジメっ子の処分が決まっていた。
いくら先生といえども、人の口に戸は立てられない。
情報によると、姫は自殺も考えたみたい…。
そこに、自殺を止めて姫を救ってくれたばかりか、校長に直談判をしに行った親戚の若い男の人が現れたらしい。
あぁ、姫…気付いてあげられなくて、ごめんなさい…。
常に姫を見ている訳ではないので、気付かなかったのが本当に悔やまれます。
しかし白石という奴は許せない…
姫が許すと言わなければ、ファンクラブとしても制裁を考えていたところだ。
そして姫を助けた親戚の若い男の人…
姫を助けてくれて、本当にありがとうございます…。
やっぱり付き合うなら年上の男性だね、そんな出会いは無いけれど。
ボクには姫が居ればいい…
でも姫は最後の学園生活を送る年だ、来年はもう姫と一緒には居られなくなる…
このまま姫を見ているだけなんて寂しい…
でも声を掛けても姫には迷惑以外の何者でもないし…
そんな時、体育祭で姫の写真を撮っていたら、姫がボクに手を振ってくれていた!
イヤ、違う…ボクじゃ無い。
この目線は…隣の男の人?
ボクはこのお兄さんが姫の盗撮をしているのかと腹立たしげに声を掛けたところ、首に掛けていた撮影許可シール付きの通行許可証から、姫の親戚と判明した。
あぁ、この人がそうか…
顔は怖いけど、心根は優しそう…ボクにはなんとなく判る。
なんと…この人は、姫をイジメから守る目的で、ボクと姫の仲を取り持ってくれる…?
本当に…?夢じゃない…?
なんて事…!
「ほっ、本当ですか…?
本当に近寄ってもいいんですか…?」
アレ…?ガチな態度がバレちゃった…?
なんかこの親戚の人、心配そうな顔してる…
えっ、御触り禁止?
そんなぁー…
「えーっ!
さ、先っちょだけでも…」
あっ…要らん事言っちゃった…
先っちょといえば先っちょですよ…ぐふふふふ…
えっ、この話は無かった事に!?
「そっ、そんなぁ!
ここまで話しておいて、酷いです…。
姫を…姫を紹介してくださいっ、お願いします!」
ボクは必死になってお兄さんに抱き付いたら、お兄さんは恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
ウフフフフ…お兄さんの弱点見つけたり!
色仕掛けに弱いと見た!
「キャーッ!やったー!」
…結果、姫の許可が出たらという事でボクの色仕掛けは成功した。
ボク、このお兄さん好きかも。
顔は怖いけど性格は良いし、抱き付いた時のフニャっとした顔はカワイイと思う。
これからも何かと抱き付いて、からかっちゃお。
ボクも結構恥ずかしいけど、お兄さんは姫の恩人だしね。
今度から殿って呼ぼう。
その日の午後、殿から姫のファンクラブの公認を貰えたと連絡が入った。
やった!
嬉しい!!
お近付きになれる!!!
喋れる!!!!
あぁ、殿はファンクラブ会員全ての恩人です…
ありがとうございます、一生付いて行きます!
直ぐにグループトークで会員に速報を流す。
その後の姫のリレーは盛り上がった。
でも、最後に姫が手を振った相手が殿だった事に対して、
「誰あれ…」
「えっ、マジで?」
と生徒からの声が聞こえ、殿は振り返そうとした手を降ろし、哀しそうに姫を見ていた…。
ボクはそれを殿の近くで見ていて、胸が締め付けられた。
あんなにいい人なのに…
何で見た目で判断するの…?
可哀想だよ…皆、酷い…
ボクは殿の事、好きだよ。
これから殿にもし関わる事があったら、色々と良くしてあげたいな…。
憧れの姫と今は毎日会話している。
白石の奴は退学した。
姫から聞いたけど、あの体育祭の日の午後に姫に刃物を振るったらしい、自業自得だ!
そしてまた姫を殿が守ったらしい。
カッコいい…流石、殿。
殿は警察官だそうで、殿の話を姫から聞けば聞く程凄い人だと思った。
イジメの直談判の詳しい裏話も姫から聞いた。
校長も姫の担任も、姫のイジメの証拠を握り潰そうとした罰で、クビ又は移動になった。
当時、学校側は父兄に手紙を送ったり説明会を行っていたな、ボクはこの話は母から聞いたけど。
イジメられた本人が処罰を希望していないので刑事告訴はしていないが、学校側は、校長と担任は懲戒解雇及び左遷とした、と。
恐ろしい話だ、もし姫のイジメの証拠が校長に完全に握り潰されていたらと思うとゾッとする。
殿が姫の側に居てくれて、本当に良かった。
学園祭の初日、久しぶりに殿から連絡があった。
ボクはこの日のために、様々な仕込みをした。
姫のクラスに潜り込んでクラスの出し物の意見を出したり、ボクのクラスの出し物を有希ファンクラブの会員で組織票を作り、多数決でフラッシュモブにしたり。
殿には、ボクが姫の手料理を食べたいが為に『片山さんちのカレー』にした事はバレたけど。
「ハッ…!!申し訳ございません!
しかし、姫の手料理が食べれるとは…うへへっ…」
そして殿にまた抱き付いたったわ、エヘヘっ。
その後、殿の顔写真を有希ファンクラブのグループトークに貼り付ける。
ニ『このお方は姫の親戚で、姫の恩人でもある大切な客人である。
このクラブが公認に成り得たのも、この方の尽力があったが為。
今後この方を「殿」と呼称する、失礼があったら姫が悲しむと思え。』
ニ 殿の顔写真
会員2『怖っ!』
会員3『怖っ!』
会員4『怖っ!』
…………………。
会員200『怖っ!』
ニ『お前ら、失礼極まりないぞ!
公認が取り消されてもいいのかっ!?』
会員2『怖っ!』
会員3『怖っ!』
会員4『怖っ!』
…………………。
会員200『怖っ!』
ニ『お前ら、こんな時ばっかり連携を取りおってからに〜!
この方はな、本当にいい人なんだぞ!
知らないぞ、姫が激怒しても…』
会員2『怖っ!』
…………………。
ニ『もういい!しっかりやる様に!』
そして姫の前でのフラッシュモブも無事に成功させる事が出来た。
モチロンこの2日間、クラスの出し物として様々な場所で何度もフラッシュモブをしてたけどね。
今回はなんと…ボクは初めて姫に抱き付く事に成功した!
しかも姫のおっぱいにグリグリ出来た…うへへ…
殿にも抱き付いたった、エヘヘっ。
そして最後に…これは学校ではボクしか知らない姫から聞いたナイショの話…
それは、殿が姫の親戚では無く、自殺をしようとした姫を偶然止めた通りすがりの他人だという事。
姫は口にはしないけど、殿の事をベタ惚れしている。
そうか…良かった…あんなにいい人はいないもんね…
ボクの初恋は終わった。
でも、ボクは出来れば姫が卒業後も姫の家に遊びに行けるくらいに仲良くなりたい。
それで、殿とも仲良くなって、2人の恋を近くから見守りたいな…。
それが、最近出来たボクの願い。
後夜祭のファイアストームを眺めながら、ボクは夜空の星を見上げた。
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