第112話 学園祭②

 「…おはようございます、遠山さん。」


 俺が正門から学内に入ると阿部先生が真顔で挨拶して来た、怖い。


 「おはようございます、あの、さっきのは違うんです、アイツ有希のファンクラブの会長で、俺に頼み事がある時は何故か抱き付いて来るんです、過剰なスキンシップですよねー、アハハハ…

 信じてください、決しておたくの生徒に手を出してるワケではありませんので…。」


 「見てましたよ、二上さんから抱き付いてましたよね、大丈夫です。

 遠山さんって、不思議な方ですよね…。

 懐が深いというか、関わると惹き込まれてしまう…。

 あの子も活発な子ですが、男性の先生方に抱き付くのは見た事がありません。

 きっと、貴方だからだと思いますよ。

 理由は本人に聞かないと解りませんが。」


 「イヤ、それは絶対に違います、アイツは有希に気に入られたいだけですって。

 アイツ百合ですから。」


 「それは否定出来ませんよね、アハハッ。」


 …なんだ、この人もちゃんと笑う事は出来るんだな、笑わない人かと思ってた、よきかな。


 「あっ…あの、体育祭の時は大変でした…

 怪我とかはされてませんか?」


 「あー、白石の件ですね、大丈夫ですよ。」


 「そうですか、良かった…。」


 阿部先生が胸を撫で下ろす仕草をしたので、思わず胸を見てしまった、相変わらずの巨乳や…おっと、イカンイカン。


 すると阿部先生が、胸を隠す仕草をして顔を赤らめた。

 ヤバっ…バレたか、どうしよう…


 「…見たいですか…?」


 「…へっ…?

 イヤイヤ、本当にゴメンナサイ、先生が胸を撫で下ろす仕草をしたので、つい目が行ってしまいまして…

 本当にスミマセン。」


 「…私、こんな胸をしてるので、通勤時間とか、男の先生とか…

 何処に行っても毎日見られてるんです…。

 何でこんなに大きくなっちゃったんだろう…。

 やる事なす事ドンくさいし、男性にも女性にも胸の事でイジられるし…

 何だか全てにおいて萎縮してしまって、笑わない女とか言われるし…」


 …何だかおかしな方に話がいってしまった…

 先生は泣きそうになってるし…


 「先生、ちょっと門の陰の方に行きましょうか。

 ここではひと目がちょっと…。」



 先生を促して、あまり人気ひとけの無い場所に移動する。



 「先生、気付いてましたか?

 さっき私と喋ってる時、素敵な笑顔でしたよ?

 貴女はちゃんと笑う事が出来る。

 今は色々と重なって心が疲れてしまっているんでしょう。

 その原因の一端となってしまった事は謝罪します。

 …もうこの際だから言ってしまいますね、セクハラだ!って怒らないでください、取り繕ったって仕方ないし。

 貴女の胸は男から見たら魅力的だし、女から見たら嫉妬する程羨ましいんだと思いますよ。

 だから、萎縮するんじゃなくて、自信を持ってください。

 誇りを持って、胸を張って生きてください…胸だけに…」


 「プッ…アハハハハッ…!」


 阿部先生は腹を抱え、涙を流して笑っていた。

 きっとストレスで感情が高まったんだろう、泣けばいいさ。


 俺がハンカチを渡すと阿部先生はそれで涙を拭った。


 「ありがとうございます、ちょっと気分が楽になりました。

 遠山さんもオヤジギャグ言うんですね。」


 「まだオヤジじゃ無いと思いたいですがね。

 今回は本当にスミマセンでした、私が胸を見たばっかりに…。」


 すると阿部先生は顔を赤くしながら、


 「…遠山さん、私は魅力的ですか…?」


と聞いて来た。


 先生に自信を付けてもらおう。


 「はい、魅力的です。」


 「…私の胸…触りたいですか…?」


 「…へっ…?」


 待て待て待て待て…どういう事だ?

 触りたいと言ったらセクハラだし、触りたくないと言ったら先生を傷付けて自信を失わせてしまうし…

 コレって、毎度お馴染みの受け手次第ってヤツだよね…

 えーい、なるようになれっ!


 「…はい、触りたい程魅力的です!」


と答えた瞬間、阿部先生が真っ赤になりながらも


 「遠山さん、セクハラです♪」


 「ですよねーーー!!」


 俺、ピンチ!

 だからこういうのはイケメンじゃ無いと通用しないんだよ…

 どうしたらいい…?

 取り敢えず謝罪や!


 「ス、スミマセン!

 もう2度と言いませんので、カンベンしていただけませんか…?」


 「えー、どうしようかなー?」


 「……。」


 俺は土下座しようかと地面に片膝をついたら、阿部先生はビックリした様子で俺の腕を掴んで止めた。


 「ごめんなさいっ、冗談です、本気にしないでください!

 あっ…でも、1つお願いが…。」


 俺は目の前に現れた巨大な双丘を見ない様に立ち上がった。


 「私に出来る事なら何なりと。」


 「では、私と合コンしてもらえませんか?」


 「…えっ?合コンですか?

 私の聞き間違い…?」


 「いいえ、聞き間違いではありません。

 私共の様な教員は出会いがありません、遠山さんの様な尊敬出来る職業の方と合コンをセッティングしていただければと。」


 「…それで許していただけるのならお安い御用です。

 うちの方としては、若い男はいくらでも…もう本当にいくらでも確保出来ますので。

 改めてまたご連絡をいただければ。」


 「えー、遠山さんから連絡してください。

 以前連絡先をお教えしたのに、遠山さんから1度も連絡をいただいて無いのですが…。」

 

 「えっ…?あっ…はい。」


 あっれぇー?俺の記憶違いでなければ、有希に何かあったら連絡するって約束で連絡先の交換をしたんじゃなかったっけ?


 「では遠山さん、励ましていただいて、ありがとうございました。

 おかげで元気が出ました。

 本当は学校をご案内したいところですが、私も仕事をサボる訳にはいかないので、これで失礼します。

 生徒達が頑張って準備したので、今日は楽しんでいってくださいね。」


 「はい、ありがとうございます。」


 「あっ、そうそう。」


 阿部先生が近付いて来て、俺の耳元で


 「わざわざ目線をズラさなくても、遠山さんになら見られてもいいですよっ。」


 と爽やかな笑顔で立ち去っていった。


 …イヤ、そんな事爽やかな笑顔で言われても…

 男性諸君、俺達の目線はバレバレだぞ、気を付けろ!!

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