第111話 学園祭①

 10月になり、有希がSNSで学園祭の開催日を知らせて来た。

 日にちによっては有給休暇も考えていたが、毎月お決まりの土日の連休に当たっていたので助かった。


 金曜日の夜に片山家に泊まり、土曜日に公共交通機関で学校に行く事にした。

 今回撮影許可は事前に有希に取ってもらっているので、体育祭の時と同様、通行証にシールを貼ったネックストラップを受け取った。

 婆さんは日曜日に行くそうだ。

 俺はどうしようかな、土曜日で遊び足りなかったら日曜日も婆さんに付いて行こうかな。


 有希のクラスはカレーを販売するらしい。

 その名も

 

 『片山さんちのカレー』


 だ。

 これには俺も思うところがある。

 きっとアイツが絡んでいる事間違い無しだ。

 ちょっとアイツと1回接触しておかないと。

 有希は仕込みが終わったら交代で休めるみたいなので、空いた時間で一緒に学校内を回る約束をしたが、そう上手く行くかな…。



 土曜日の初日、小鳥遊学園女子高等学校の『小鳥遊祭』と書いてある看板が貼られている正門前。

 学園祭開門時間、午前10時0分。SNSにて


 遠『二上ひかり、現在時、正門前に集合!』


 既に、まだかまだかと待っていた他校の男子学生達や小さい子供を連れたお父さんお母さん達が続々と中に入って行く中、既読が付いた2分後に二上は現れた。

 

 「殿との、お呼びでしょうか。」


 「うむ、なかなか早いな、褒めて遣わす。」


 「勿体無きお言葉。

 して、ご用件は。」


 「二上よ、「ひかりとお呼びください。」


 「…ひかりよ、片山さんちのカレー…

 学年が全く違うのに、有希のクラスに出入り出来る立場を利用して、出し物のネーミングを考えたのはお前だな?」


 「…その通りでございますが、何か。」


 「確かに売上げは上がるし、実際に仕込みは有希がやるそうだから嘘偽りは無い。

 が、しかし。

 有希が忙しくて遊ぶヒマが無いかもしれん。

 てか、絶対に忙しくなるだろう、お前が200人に増えたと報告して来た有希ファンクラブの会員が買わないハズが無い!

 高校最後の学園祭なのに、忙しくさせてどうする!」


 「ハッ…!!申し訳ございません!

 しかし、姫の手料理が食べれるとは…うへへっ…」


 「…お前、やっぱりワザとだろ…

 自分の欲望を優先させたな、不届き者め!

 ええぃ、仕方ない、今回の事は不問にしよう。

 代わりに1つ頼みがある。」


 「なんなりとお申し付けください。」


 「ファンクラブ会員には俺の事を知らない者の方が多いな?」


 「そうですね、会員は本当は殿に大恩があるのに、殿の事は存じ上げないかと。」


 「では、今から俺の顔写真をファンクラブに晒せ。

 今日は有希と2人でブラつくかもしれん、いちいちファンクラブ会員からブサイクが付き纏っていると通報されては敵わん。

 ちゃんと親族のお兄さんとコメントするんだぞ。

 もし今日これから、俺が学校内でファンクラブから邪険に扱われた時は…解ってるな?」


 「えっ…えぇー…?

 解りませんが…?」


 「有希にファンクラブ会員から邪険に扱われたと告げ口する。」


 「えー!姫の心象が悪くなるじゃないですか、止めてくださいー!」


 二上が必死に俺の胴体にしがみついて来る。

 

 「止めろ、抱き付くな!

 俺は嘘は言わないぞ、邪険に扱われなければ言わないから!

 お前、毎回毎回抱き付かないと頼み事も出来ないのか!」

 

 こんなん有希に見られたら、また怒られ……って、ハッ!


 阿部先生が門柱からヒョッコリと顔だけ出して何か言いたそうな悲しげな顔でコッチを見てる…


 俺は二上を引き剥がし、この場を立ち去らせ、急ぎ二上に俺の顔写真をSNSで送っておいた。

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