第105話 自殺 ※残酷描写有り(心霊体験④)

 ※このページにはサブタイトルの通り、残酷描写があります。

 苦手な方は読むのをお止めください。


ーーーーーーーーーーーーーー


 今日の仕事は日勤で、朝から夕方までパトカーの応援勤務だ。

 今日の相方は福原主任で、俺よりちょっと年上の丸刈りイケメンだ。

 丸刈りは自宅で奥さんにバリカンで刈ってもらうので、金も掛からずラクでいいらしい。


 非番との交代後、警ら…

 警らというのはパトロールの事だ。

 パトカー2号で警らに出ると、無線で警視庁通信指令本部から、

 

 『119番からの転送、淀橋6丁目の一軒屋において首吊り自殺の模様、年配女性が心肺停止状態、事件性の有無を調査せよ。』


との110番指令が入った。

 何故自殺に臨場するかというと、自殺か他殺か、事件性が有るのか無いのか調査せねばならない。

 なので、119番だけに電話したつもりでも、事件性が有るのか無いのか110番にも消防庁から連絡が入るのだ。

 これは暴行や傷害、交通事故のケガ等も一緒で、消防庁に通報があった場合は警視庁にも連絡が来る事になっている。


 現場に到着すると救急隊が既に現着しており、玄関の外にいた救急隊員が、


 「この家の奥さんが、旦那さんが留守の間に階段の手摺にロープを結んで首を括っていました、既にロープは切っています。

 心肺停止状態ですが、まだ体温があるので、これから大至急病院を選定します。」


と受け入れてくれる病院に携帯電話で慌ただしく連絡をし始めた。


 俺は玄関ドアを開けて中に入ると目の前の真っ直ぐ延びる廊下には寝そべった状態の年配女性と心臓マッサージをしている救急隊員、その廊下の左手奥に階段があり、手摺には切ったロープがそのままぶら下がっている。

 その階段の横には旦那さんと思われる年配の男性がいて、残りの救急隊員1名が事情聴取をしていた。


 俺はその事情聴取に加わり、聞き耳を立てる。


 「妻はうつ病で5年前から近くの精神科の病院に掛かっていて、度々死にたいと言っていました…。

 今日は私が買い物に出掛けている間に首を吊った様です。

 3ヶ月くらい前にも橋から飛び降りようとして警察にお世話になった事があります。」


 そこで俺は女性の顔をよく見たところ、

 3ヶ月前の夜に大きな川の橋から飛び降りようとしている女性がいる、という110番で俺がたまたま取扱った女性だという事を思い出した。

 あの時は飛び降りる前で説得に応じてくれ、生活安全課に引継いだのだが…


 「3ヶ月前に奥さんをお止めしたのは私です。」


 「そうですか、貴方が…。

 その節はありがとうございました…。」


 「いえ、お気になさらず。

 申し訳ありませんが、警察としては事件性が無いかどうか確認させていただきたいのですが…

 先ず、自宅に帰って来た時は鍵は全て掛かっていましたか?

 こじ開けられたりガラスが割られたりはしていませんか?

 それと家の中が荒らされていたりとか奥さんの身体に首以外に傷があったりとか書き置きがあったりとか。」


 「玄関の鍵は締まっていましたし、ガラスはざっと見て割れてません、家の中も荒らされた感じはありませんし妻の身体には傷はありませんでした。

 でも書き置きはまだ確認してません。」


 「では確認させてください。」


 そう言いながらリビングやダイニングキッチンを捜したところ、テーブルの上の新聞広告の裏の白い部分に、エンピツで


 『お父さん ごめんね 先にゆく』

 

と書かれた文字が見つかった。


 俺は旦那さんに、


 「これは奥さんの字ですか?」


と確認すると、旦那さんは


 「妻の字に…

 間違いありません…。」 


と答えた。

 奥さんは救急隊によって救急病院に運ばれ、旦那さんは家の戸締まりをした後、自分の車で病院に行くそうだ。

 俺は到着した刑事に全て報告すると、病院調査を命ぜられた。 


 病院調査とは、暴行や傷害事件の被害者の怪我の状況や、今回の様な、人の生死を確認しなければならない場合、病院に行って診察をした先生から警察が直接診断結果を聴くというものだ。


 俺は福原主任と共にパトカー2号に乗り込み、奥さんが搬送された、他管内にある救急病院に向かった。



 病院では暫く心臓マッサージが続けられたが、回復の兆しは無く、担当医師は旦那さんの到着を待って、死亡確認をした。


 俺は本署に、医師によって死亡確認されたと無線で一報し、パトカーを運転して管内に戻った。



 管内のとある交差点で信号待ちをしていたところ、助手席に座って外を見ていた福原主任が、


 「ワーーーッ!!!」


と突然大声を上げてから、パトカーの後部座席を直接振り返って見ていたので、


 「どうしたんですか?突然…」 


 と聞いたところ、福原主任が青ざめた顔をしながら、


 「う…後ろにさっきの奥さんが…

 パトカーの外のビルの大きなガラスを見たら、ガラスにパトカーの後部座席が写ってて…

 パトカーの後部座席に、さっきの奥さんが座ってた……。」


 「ふむ…きっと魂だけでも家に帰りたかったんでしょうね…。」


 俺もちょっと寒気がした。

 自殺を考える人は、何度止めても根本的な解決が成されないと自殺をしてしまうんだな…。

 例えば借金を苦に…という原因があっても、残念ながら俺がその借金を払ってあげられる訳ではないし、今回の様に心の病も俺が治してあげられる訳でもない。

 毎回遣り切れない気持ちでいっぱいである…。


 昨年は日本全国で2万人の方が自殺で亡くなっている。

 御冥福をお祈りいたします…。

 


 ふむ…数珠って持ってても、必ずしも効く訳ではないんだな…。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る