第74話 ピアス

 次の日、俺の車の助手席に乗り込んだ有希が、


 「…あっ…。」


と一言声をあげた。

 その後、足元の何かをつまみ上げ、暫く見つめた後、緊張した顔をしてゆっくりとソレを俺に突き付けて来た。


 「真之さん、これは何…?」


 「エッ…?

 それは…ピアス…かな?」


 「かな?じゃないでしょっ!?

 これは誰のピアスなのっ?

 お兄ちゃ…真之さんは、彼女いないんじゃなかったの!?」


 「…あっ…アイツっ!!」


 ピアスがあったなんて、運転席からは死角だから全く気付かなかった…

 だからアイツは意味有り気にニヤ付いていたのか…ヤラれた…!


 「アイツって誰!?」


 「落ち着いて、ちゃんと説明するから。」


 俺は4月から女性警察官の指導を命ぜられた事、失礼なヤツで、ストーカーされて家に上がり込まれ、おかずを婚約者が作ったと言ったら食べられ、車で寮まで送らないと帰らないと言われ、仕方なく車で送った事等をスマホの録音を再生しながら説明した。


 …俺、最近ボイスレコーダーとかスマホの録音録画ばっかり多用してるけど、今までこんなモノ使う必要のある人間じゃ無かったのにな…


 有希は録音を聴いて深呼吸をした後、


 「真之さん…1つだけ聞いてもいい…?

 真之さんは、この菅野って人の事…すっ、好きなの…?」


 「ピアス1つで婚約者との仲を引裂こうとするヤツの事、俺が好きなワケ無いだろ?

 それにいくら婚約者のフリでも、有希を迎え入れる以上は有希以外の女の子を自分の家に上げる気は無い。」


 まぁ、有希以外の女の子がウチに来るなんて事は今後絶対に無いと思うが…あぁ、婆さんはウチに来てもいいけど。


 「…解った…真之さん、このピアスは婚約者である私への宣戦布告だよ。

 この勝負、受けて立つ…!

 これに勝たないと、真之さんの家にこの女の人がまた来て真之さんが襲われちゃうから…。」


 「そうだな、また来られても困るけど…

 でももう来ないんじゃ無いかな?多分。

 もう家の中には入れないし。」


 「ダメだよ、車の中にワザとピアス落として婚約者と別れさせようとする人なんだから、絶対にまた来ると思う。」


 「…かもなー。

 でも、どうするの?」


 「その菅野さんて人と直接会ってピアスを返しつつ、私達2人がイチャイチャして別れる気が無いのを見せつければいいんじゃないかな…。」


 「えーっ!!

 イチャイチャって、そんな…

 有希は…いいの?

 その…俺とそんな事して…

 ガマン出来るの…?」


 「ガマンとか言わないのっ。

 私、真之さんとなら…

 してもいいよ…。」


 なっ…なんと…!

 衝撃的なお言葉…マジか…


 「うっ…うん…

 有希がいいなら、俺は何も言う事は無いかな…。」


 その後、有希と昼ご飯を食べに行きつつ、菅野対策をどうするか話し合った。


 しっかし…菅野って、性格悪いなー、やっぱ無理だわ…

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