第73話 退学

 7月、有希の試験が終わった後の金曜日の夜、俺は片山家に夕食を食べに車で向かっていた。


 6月中にSNSで有希から知らされたのだが、白石は体育祭の後、無期限の停学処分となり、精神的な病を理由に自主退学となったそうだ。

 他に、違う学校に転校するという噂話も出ているそうなので、白石の父親が金の力で何とかするんじゃないかな、知らんけど。


 まだ白石の取巻きのイジメっ子が残っているが、一先ひとまず有希も安心出来たのではないだろうか。

 

 有希ファンクラブの取巻きはいつもいるらしい、休み時間には教室内まで入り込んで来るとか。

 俺から言い出した事だが、有希が困らない程度にしてくれないとな…

 二上に有希とよく話し合う様に連絡しておこう。


 さて、着いたっと。

 いくら箱根で夜でも、暑いものは暑いな、俺は夏は嫌いだ。

 特に仕事中は鉄板が入ったチョッキを着ているので、外に出ると鉄板が熱を持ってきて暑いのなんの…

 今は思い出したくない。

 

 今日は有希がお出迎えだ、白いTシャツにショートパンツ…

 可愛い子は何を着ても可愛いなぁ…ボリューム。


 さて、本日のメニューはナスとベーコンのトマトソースパスタとキャロットラペ、具沢山コンソメスープだ。


 俺は麺類もうどん以外は大好きだ、いつもかなり多めに作ってもらっている。

 有希は一から作るからエライよな、俺なら最初から出来合いのレトルトソースを茹でたパスタに掛けるだけだが。


 ベーコンは塊を切ったモノがゴロゴロ入っているし、キャロットラペはニンジンが主体のサラダだ、片山家のはレーズンとチーズが入っている、美味い!

 コンソメスープは野菜が沢山入っていて、普段野菜摂取が足りない俺には有り難いメニューだ。


 今日は婆さんにクラフトビールを持って来た。

 拝島という駅を降りて歩くと多摩川の近くに酒造がある。

 ここは元々日本酒を造っているのだが、100年以上前にドイツからビール職人を呼んで造ったビールが、ここの『多摩のめぐり』だ。


 このビールは高いのだが、俺は今まで飲んだクラフトビールの中では1番だと思っている。

 ここのペールエールとヴァイツェンは美味い。

 婆さんは目の色を変えて、


 「この地ビール美味いのう!もっと買って来とくれ!」


 「いやー、そう言うだろうと思って一応1ダース買って来たけどさ、これ1本600円するんだよ、頻繁には買って来れないからな。」


 「ふむ…美味いから許す。」


 「確かに。

 これは自分への御褒美ビールだな。」


 いつも酒の話は有希を置いてけぼりだ。

 ちょっと料理の腕前を褒めておくか。


 「本当に有希の料理は何を食べても美味いな、最高!

 有希はいいお嫁さんに…ハッ…!」

 

 気が緩んで、ついセクハラな事を言ってしまった…!

 前にも言いかけた様な…


 「いいお嫁さんに?」


 「続きを早よ!」


 何で2人ともぐいぐい来るの?

 

 「…何でもない…。」


 「…ハァーッ…。」


 「ヘタレ。」


 何なんだ、もし俺がいいお嫁さんになれるね!とか言ったら、ヨメに来てくれんのか?

 

 んなワキャー無いだろうが。

 

 はぁ…俺だって上手く行くんなら、好きだとか結婚してくれとか一生涯のうちに言ってみてーよ…。


 「有希、明日はその辺の美味しい店にでも行って何か食べよ。

 たまには婆さんも行くか?」


 「ワシは遠慮する、2人で楽しんで来い。」


 「そう?うーん、何にするかな、丼もの?ピザ?ハンバーグ?中華?

 それとも試験終わったから奮発してホテルのビュッフェ?」

 

 等と、その後も明日の行く店を話し合った。

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