第72話 殺人電波
有希は大学推薦に影響する最期の試験が7月上旬にあるため、6月は勉強したいと言っていたので、7月上旬までは仙石原には行かない事にした。
そして刑事講習に行っていたウチの係の女性警察官が帰って来たため、俺は漸く菅野と離れる事が出来た、良かった良かった。
アイツは時々俺の方を見ては意味有り気なニヤ付き顔をするので、何か企んでそうで怖い。
本日の勤務は日勤だが、ここ数ヶ月くらい日中に毎日110番を掛けて来る、団地住まいの60代の独居女性がいて困っている。
本日も110番が入ったので俺が臨場した。
『ピンポーン』
『…はい…。』
この女性は玄関ドアを開けたがらないので、いつもインターホン越しに会話をしている。
「こんにちは、淀橋警察の者です、呼ばれましたか?」
『はい、また隣から殺人電波が飛んで来て、寝れないのです…何とかしてください…。』
しかし、この女性の部屋は角部屋で、隣の部屋は以前は住んでいたのだが、この女性から毎日苦情を入れられて嫌になってしまって転出し、今は空き室である。
「でも、隣はもう誰も住んでないですしね、そんな殺人電波なんて出てないですよ、出てたら私も死んでますし。」
『そんな事はありません、私は毎日殺人電波に苦しんでいます、頭が痛くなったり、寝れなかったり…何とかして止めさせてください。』
「止めさせてくださいって言われてもね…以前にも隣の部屋の中を見せてもらいましたけど、何もそんな発生装置は設置されていませんよ、気のせいではありませんか?」
『気のせいじゃありません、間違いなく隣の部屋から出ています…。』
我々は毎日この遣り取りをしている。
いつもはパトロールしておきます、と何とか納得してもらって引き上げるのだが、さすがに数ヶ月毎日呼ばれるのも厳しいし、これは心の問題だから、この女性に安心して寝てもらうため、俺は一計を案じた。
「分かりました、では私が殺人電波を中和する電波を出しておきますから、安心して寝てください!」
と自信満々に伝えたところ、
『…フッ…そんな電波、ある訳無いじゃありませんか…。』
ちょ、待てーい!!
殺人電波なんてものが本当に存在しているならば、貴女は既に浴びた時点で死んでますからっ!!
殺人電波なんてありませんからっ!
確かに殺人電波を中和する電波なんて俺は出せないが、殺人電波の存在を信じてる人が、殺人電波を中和する電波を否定するのっておかしくね!?
しかも鼻で笑われたし!
「とっ、とにかく、付近をパトロールしておきますから、今日のところはこれで納得してください。」
『はい…よろしくお願いします…。』
こういう110番は内容は違えど多数存在する。
例えば監視カメラを付けられている、盗聴されている、毎日つけ回され監視されている、電波が飛んで来て車を蹴れと命令された、鍵も壊されていないし家の中も荒らされていないが、外出から帰って来るとテレビのリモコンの位置が微妙に違う等である。
その後もこの女性の110番は無くならなかった。
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