第75話 決戦①

 7月下旬、有希は夏休みに入り、俺の家を掃除するという名目で、また数日間だけ泊まりに来ている。


 俺は夏休みとして有給休暇は取れるのだが、数十人いる係員が順番に数名ずつ休んでいくので、ビッシリと予定が組まれていて、急に休みを入れる事は出来ない。

 

 俺は普通の週休日に係の連絡網を使って菅野を女子寮の最寄り駅近くの喫茶店に呼び出す事に成功した。

 菅野に電話で、車内に落ちていたピアスを返したいとは言ったが、有希が一緒に来る事は伝えていない。


 俺と有希はこの作戦中は婚約者の様にイチャイチャすると取り決めをしたので、ペアリングをして、手を繋いだり腕を組んだりするつもりだ。


 さて、この邂逅は俺が仕組んだものだが、俺と有希にとって、いい方向へと傾くのであろうか。

 


 待ち合わせの時間に喫茶店に入ると菅野は既に来ていたらしく、若干照明が落とされた感じの店内の奥の壁際のテーブルから笑顔でこちらに手を振っていたが、俺の後ろから有希が顔を出したのを見た途端、菅野はフリーズした。

 

 俺と有希が手を繋ぎながら菅野の席に近付くが、菅野は目を丸くし、金魚の様に口をパクパクさせながら、コチラを指差している。

 コイツもこんな顔するんだな(笑)。

 

 何かブツブツ言ってるな、んー?

 聞き耳を立てると、


 「は…犯罪…犯罪…」


 「俺は犯罪者じゃない!」


 「だって、先輩…

 この子、未成年じゃ…」


 「俺は婚約者だからいいの!」


 そう…以前、未成年者とエッチな事をすると本人の許可があっても捕まると言ったが、1つだけ例外がある。

 その1つが、結婚を前提とした相手ならば、エッチな事も許されるのだ…!

 

 まぁ勿論これはあくまでフリなので、そんな事は絶対にしないし、以前の俺はフリとはいえ婚約者の関係になるとも思っていなかったので、モテない俺には全く関係の無い事だと思っていた。


 「なんという美少女…

 可愛くもあり、綺麗でもあり…

 肌はピチピチ、髪はツヤツヤ…

 先輩、どこのモデル事務所から女の子借りて来たんですか?

 私を騙すなら、もっと普通の子を連れて来ないと。

 あの料理も、実は先輩が作ってたんでしょ。

 レンタルのお金が勿体無いから、早く契約解除してきてくださいよ。」


 真顔でそんな失礼な態度を取る菅野の前に有希が立つと、

 

 「初めまして、片山有希と申します、遠山さんのです。

 遠山さんのですよね、いつもお世話になっております。」


と、優雅に一礼をした。

 …既に戦いは始まっている様だ。

 俺と有希が菅野のテーブルに相席し、寄って来た店員に飲み物を注文する。

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