第7話突然変異
「ポータブルは地上にいる私達人間を駆除する為に、一時的に重力を変えた。それはゲートを発生させることで自然に起きた。そして…人類の大半は死んだ」
えっ…でも…
「じゃあなんで…俺達は…」
「そう、なんで私達は生きているのか。」
知ってる?と、知ってる訳が無いと分かっている俺に、少女は問う。
「知らん」
「そうだと思った」
じゃあなんで聞いたんだ。
「私達は特別ーー人間の突然変異種とでも言うのかな。私達は普通の人間よりも過酷なーーそれは空気が薄かったり、氷点下の温度だったり、ありえない程の紫外線を浴びても、少量の食料と水で生きていける」
「そんなスーパーマンなのか?俺達って」
「そうだね、私達はすごい。でも…」
…少女の言いたい事は分かる。
なぜならそれは、俺も少女と同じく【特別】なのだから。
「あぁ…いくら特別でも…人生は最悪だな」
「うん…」
そうだ。いくら特別ですごい人間なんだとしても、それを自慢したり出来ないこの世界では、意味が…。
「あるよ」
すると少女は、俺の考えを先読みしたようにそう言った。
「え…?」
「意味ならある」
「…」
少女は何がとは言わなかった。
しかしそれは時間が経てばいずれ話してくれる気がして、俺は急かさずに、まずは少女の説明の続きを聞く事にした。
「まぁとにかく、特別な体質の私達はこんな世界でも生きていける。でもそれは、ポータブルも同じ。ポータブルの体質は私達に似ていて、今の様な、少しだけ重力が減ったーー戻った世界で生きていける」
「…よく…分からないけど…つまり、そのポータブルってのが地球上にあがってくるためには人間が邪魔で、そのためにゲートを開いて重力を変え、俺たち人間を殺した。」
っと、そういう事か?そう少女に問うと、
「うん。大体合ってる。でも、ここからが本題。」
「本題?」
「そう、本題。そもそもなんで、ポータブルは今出てきたのか」
あぁそうか。水や食料が欲しかったなら、なぜ今なのか。
なぜもっと前に地球上に上がってこなかったのか。
「それは、あいつらの中に知能の高い奴が居なかったから」
「え?」
俺の疑問の声に、少女は突然変異だよと答える。
「あいつらも突然変異した。そして圧倒的な知恵を手に入れた。そしてようやく地球上に出てくる用意が整ったポータブルは、今しがた侵略していっていると、そう言う事」
分かった?と、少女は俺に聞いてくる。
「あぁ…大体は」
「そう?良かった」
「…」
「…」
「…落ち込んでるね」
…。
そしてその問に、俺は一時の時間を置いて、こう答えたーー否、こう言った。
「…なんで…なんでそんな事を知っていて、これまで何もしなかったんだよっ」
それは和葉が死んだ事に対する八つ当たりの様であった。
「そんなに知ってるのに…なんでっなんでっっ!」
気づけば俺は少女の胸ぐらを掴みーーそれでも少女は、無言のまま俺を見つめる。
「ごめんね」
「…っっ!」
次の瞬間、予想していた答えとは似ても似つかない返答に、俺は一瞬固まった。
「ごめん。知っていても、それをどうにかする力が私には無かった。ごめん」
少女はそう言って、もう一度謝る。
やめてくれ、ただの八つ当たりなのに、俺に…俺なんかに向けて謝罪なんて…。
気づけば俺の目からは、ようやく止まった涙が、再度溢れ出ていた。
「こんな無力でごめんね…本当に…どうにかしようとしたけど、何も出来なかった。私…弱いから…」
やめてくれ、俺の方が弱いんだ。
こうして年端も行かない少女に暴力じみた事をやっている時点で…俺の方が…。
だから、と、少女は。
「私と一緒に、生きてくれませんか?」
それは「なれ」ではなく「なってくれませんか」、あくまでそれはお願いで。
それは心が籠ったお願いで。
「…すまない」
…結局俺は、大人にはなれなかった。
俺は、そんな少女のおねがいを無下にした。
俺だって無下になんてしたくは無かった。
でも、和葉が死んで、本当の意味で1人になった俺は、もう、大事な人を失う悲しみを味わいたく無かった。
…いや…それは言い訳か。
もしかしたら俺は、そう言う悲しみからーー恐怖から、逃げているだけなのかもしれない。
だって俺は、家族を、和葉を。
全員を失った悲しみを受け入れる程、強くは無いのだから。
そんな事を考えていると、無意識に表情が俯いていたのか、少女が。
「後悔?」
と、聞いてくる。
「そう…だな」
俺は思うところがある様に、しんみりと答える。
「ダメだよ、後悔は」
「え?」
しかし意外な事に、少女から返ってきた言葉は慰めでも、甘い言葉でも無い。
ただの注意だった。
俺は急に声のトーンが落ちた少女に少し驚き、目を見開く。
「後悔なんて物には意味が無い、後悔なんてするなら、【次】に向けて頑張った方が良い」
そう言ってまた、少女は唇を噛む。
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