第2話

なんだか熱い…

それに喉がひび割れそうなほど乾いてるしいがらっぽい。

風邪をひいたのだろうか。

枕元のペットボトルを探るが、そういえば昨日は準備してなかったか。


ぱち


ぱちっ


なんの音だ?

うっすら部屋が明るいな。

照明は消したはずだが。


「っぅを!?アッツ!!」


癖で布団の脇にいつも置いてるスマホを取ろうと思ったが、なにか熱い物に触れてしまった。

一瞬で意識が覚醒する。

焦げる袖口。

床を今まさに舐めている真っ赤な炎と、充満する黒煙。

あっ、これ終わった。

覚醒した意識が瞬時に遠退いていく。

充電器は純製だったろ。

なんで…



「くけけけ!おい人間!」


誰だ。

俺はまだ生きてるのか?

それとも夢だったのだろうか。

真っ暗な意識の中に何者かの声が聞こえる。


「俺様を無視するな!」


「あ、えぇっと、どちら様ですか?」


「名前を聞くなら先ずは名乗ってからじゃないのか?ええ?躾のなってない奴だ。」


「これはとんだ失礼を…。私は冴田事無さえだことむと申します。」


なんとも間抜けな会話だ。

あんな夢を見た後なのに随分と落ち着いて会話が出きる。

いや、俺は声を出しているのだろうか。


「ふーむ?よーしサエダ!俺様の名前は…」


「お名前は…?」


「名前は…えっとだな、」


「…」


なにをためらっているのだろうか。

そんなに恥ずかしい名前なのだろうか。


「まだない!」


「まだないさんですね。よろしくお願いします。」


「違うわ!名前はまだないの!」


「因みにどういう漢字を書くのでしょうか?」


「名前が無いって言ってんだろ!」


「名前がないさんで名字がまださんですか。珍しいですね!」


「違うわぼけぇっ!!」


あ、名前がまだないのか。

どういうこと?


「やっと理解したようだな!人間!」


「はぁ。つまり私ごときに名乗る名前などないと、そう仰られてるのですか?」


「ちっげぇーよ!めんどくせぇなお前。」


この冴田、なにを隠そう生きてきて24年余り、このような扱いを受けたことは一度たりとも…

いや、2、3回ぐらいはあったかもな。


「だーっ!脱線すなっ!」


その後かくかくしかじかで…


「省略すなーっ!」


はいはい。


この謎の声、実は我輩は悪魔である。名前はまだない。と宣っている。

頭のイカれたファンキーベイビーだぜ全く。

で、あの火事の最中に時間を止めて、俺の意識に語り書けているとかなんとか。

夢でももっとまともな事言えるだろ。

ネット小説読みすぎたかな。

ちょっと控えないとかもなぁ。

現実との境目が分からなくなったら困るからな。

そして何がしたいかと言うと、俺の魂を対価にこの状況を切り抜けられる力をくれるらしい。

つまりは僕と契約して云々ってやつですか?

わかりません。


「だからサエダは、了承すればいいのだ!ほら、あと1分もないぞっ!助かるチャンスは今だけ!迷ってないでさっさと決めろ!男は度胸!女は愛嬌!」


甲高い声が頭に響いている。

対価は魂って、もうちょっと詳しい説明が欲しいところである。

死地にある人間に対して、不当な価格で奇跡を売る仕事…実に有りそうな話だ。

魂がどれ程の価値なのかとか、この死地を脱するだけの力がなんなのかとか、全然分からないし。

正直契約というのはもっと話を詰めて行くべきだろう。

期限切ってくるのも、テレビショッピングの売り口上っぽいし。胡散臭さ満載だよな。

30分だけ半額ってどういう仕組みなんだろうな。


というか、さっきの発言は性差別感あるし、叩かれるって言うか。

この時代女性軽視にすら結びつける人もいるだろうし、もうちょっと気を付けた方がいいかなって。



「だから脱線すなーっ!聞いてた?あと一分もないの!ねぇ聞いてたよね!?頑張って時間止めてんの!サエダが考え込んでる間も頑張ってんの!はやくしろー!」


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