第10話:ゴーストリアの三因子04


「それで?」


 静かな漆黒の視線。男子部員を射貫く。


「何の理由があって暴挙に?」


「ぐ……っ」


(わかってるくせに)


 そう零那は思うにしても、言語化も必要としない。


「竹刀で無防備な人を襲うとは……」


「ソイツが悪いんです!」


 男子部員は零那を指した。


「何がよ?」


 示された当人には不条理の極みだろう。


「ソイツが青春さんを死に追いやって……黒冬さんを代わりにしようとしている!」


「私が死んだのは運転手のせいなんだけどなぁ」


 一子の指摘は実に正しいが、此処では余り意味がない。


「仮にそうでもソレは私と零那さんとの問題です。あなたが竹刀を振るう理由としては赤点ですよ?」


「黒冬さんは此奴の何が良いんだ!」


「それは乙女の秘密です」


「っ!」


「さて、では事務的な話に移りましょうか」


 男子生徒の暴力。零那の被害。男子生徒は一週間の部活謹慎を命じられて終わった。


「また敵が増えるな」


 とは独りごちだが普遍的な未来予想図でもある。それでも虐めが無くなったことに関しては四天王の美少女による尽力の成果だ。スクールカーストの天辺。一人欠けたが、依然影響力は強い。実際に四天王を想っている男子生徒は多い。一子の葬式では多くの男子生徒が涙を流したとのこと。


「さいでっか」


 で零那は済ませたが。


 そもそも死んだも何も目の前に一子が現存している時点で、零那にとっては現実味が薄れる道理だ。幽霊なのだろうが、今のところ祟りにもあっていないし、変に理性的でもある。色々と肯んじるにも一苦労。


「零那ちゃんに八つ当たりしても意味ないんだよ」


「その点は理性で割り切れないんだろうがな」


「零那ちゃんは本当に……」


「ワンコには感謝してるさ」


 友達を作ってくれた一点に於いて。


「一子さんと話されているのですか?」


 途中で部活を切り上げた四季が尋ねてくる。


「そ、ワンコの幽霊」


「はぁ」


 ポヤッと四季。


「忍ばないんですね」


「堪忍するにも目の前にいられちゃな」


「心が崩れそうになったらすぐに言ってくださいね?」


「へぇへ」


「零那さんは多感ですから心配で」


「だからってエッチで慰めるのもどうなんだ?」


「私では不足ですか?」


「勿体ないくらいだ」


 嘆息。


「わうーっ!」


 一子が犬っぽく警戒を新たにしていた。


「よしよし」


 一子の頭を撫でる。


「ワンコは可愛いな」


「ワン!」


「本当に一子さんが好きなんですね……」


「恋人だからな」


「嫉妬しちゃいます」


「頑張れ」


「ハートが込められていませんよ?」


「込めたつもりもないしな」


「零那さんは……」


「見限るなら早めにな」


 どちらにせよ一子はもういない。


「四天王と零那の間にどれだけの友情が数えられるか?」


 それは一種の命題だろう。


「他人行儀過ぎます」


 四季は道化の如き不機嫌の振りを示して見せた。


「たとえ一子さんが仲介しなくとも私たちは友達ですよ?」


「こんな奴は迷惑じゃないか?」


 この卑屈さは零那の後天的に獲得した資質だ。


 曰く、


「人間不信」


 そう呼ばれる思索。


「一子さんの事は本当に……」


「目の前にワンコがいればさすがにな」


 何かと不便な霊体化。


「そうですか」


 分かっているのやらいないのやら。されども懸念こそしても侮蔑をしないのが委員長クオリティ。特に馬鹿にもしないし否定もしない。


「良い奴だな。委員長は」


 常々思っている零那ではあったから今更だが。

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