第9話:ゴーストリアの三因子03


 放課後になる。


「零那ちゃん!」


「どうしたワンコ」


 零那は声を潜めた。さすがに幽霊と声を大にしては話せない。無論四天王はしっかりと零那の応答を耳にしていたが、事情が事情であるため慮るらしい。


「友情万歳」


 そんな零那であった。


「で、何か?」


「何時もの感じ?」


「さいです」


 他に言い様もない。


「零那さん?」


「はいはい委員長? 何事で?」


「行きましょう」


「俺一人で大丈夫か?」


「構わない案件かと」


「そっちが納得するならこっちが憂慮することもないな」


 何事かと言えば、


「面!」


 部活の見学だ。委員長……黒冬四季は剣道部員で、ついでにエースだ。全国にも出場経験があり、色々と重宝されている。当人はその事に誇りを持っているわけではなく、


「部活動は思春期の栄養ですから」


 などと言うに留める。零那が、


「委員長」


 と呼ぶのも納得。


「何かに付け真摯で他者を思いやる」


 無論それに対する不利益も存在するが、ここでは論じない。


「やっぱり凄いね四季ちゃん」


「委員長は男子より強いしな」


 そんな零那と一子は剣道場の端で四季を追う。


「ワンコも何かしらの部活に入れば良いのに」


「死んでから言われてもなぁ」


「じゃあお前は何なんだ……って話だが」


「幽霊ではあるよね」


 少なくとも一億総スルーには違いない。


「八紘一宇……例外俺……か」


 内的要因か。あるいは外的要因か。それさえも定かではない。


「おい。お前」


 そこに不機嫌そうな声がかけられる。見れば面を外した男子部員が竹刀片手に零那を見やっていた。


「何か?」


 あまり面白い話になりそうにないことは認めざるをえない。


「青春さんが死んだからって黒冬さんに乗り換える気か?」


 邪推……というよりゲスの勘ぐりだろう。


「委員長は可愛いしな」


「私とどっち?」


「ワンコ」


「何言ってんだ?」


 零那と一子の会話に疑念を持つ男子部員。


「可愛い犬みたいに可愛い委員長だなって話」


 同じ冠言葉が続いたが、実際に四季は美少女だ。後刻学院高等部四天王。その一角。剣道部のエースでクラスの委員長。カリスマが高く何事にも真摯。


「巫山戯てんのか?」


「遊び心は忘れないタチでね」


 挑発としては、あまり出来は良くないが、


「っ!」


 男子部員の怒りは買った。片手で竹刀を振り上げて振り下ろす。


「物騒だな」


 その竹刀を片手で掴んで零那は眉をひそめる。


「零那さん!」


 部活を放り出して四季が走り寄ってくる。


「よ」


「大丈夫ですか?」


「それなりに」


 手を痛めるほどでもない。

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