第6話:それは触れぬ障り者05
二週間ほど病院で過ごした後、零那は退院することになった。元より怪我という怪我もない。意識は一部を除いて健全だ。その一部がこの際の不安材料ではあるが、それは通院なんて形をとった。
薬も処方されたが零那の方は、
「何と言った物やら」
が本音だ。事故の翌日の新聞を読んで青春一子の訃報は読み取れた。まさか零那に対するドッキリだけで新聞がブラックジョークをとばすワケもないだろう。
「となると益々お前が何なんだって話なんだが……」
茶髪のふわふわパーマ。同色の瞳。黒のセーラー服はいつも通り。
「幽霊……なのかな?」
一番適確な表現。
「自覚は?」
「あんまり」
「だよな」
少なくとも零那には見えるし触れる。が、その他の人間には見えないし触れない。会話をすれば看護師の視線が痛く、誤魔化し笑いで乗り切るほかなかった。
「幽霊ねぇ」
科学の勝利とはいかないのも確かだ。退院した後、零那は真っ先に墓参りをした。青春家の墓。しっかりと一子の名が刻まれている。さすがに遺骨を見てもしょうがないので墓前で手を合わせて、帰途につく零那だったが。
「死んだっていわれてもだよ……」
当の本人は困惑気味だ。
「轢かれたときの記憶はあるか?」
「それなりに、だよ」
「ワンコニズムだな」
幽霊が傍に居る。
言うのは簡単だが、どうしても事実と研磨する。どちらに依るかは後日の事としても、目の前の一子は確かに存在するのだ。
「何の冗談だろうな?」
これが死に装束で脚がなければまだ分かりやすくはあったろうが、一子は幽霊にしては脚があって、重力に従って地面を踏みしめている。
他の人間には見えないらしいが、零那は視認しており、なお触ることも出来る。
「死んだ実感が湧かない」
それもまた確かだったろう。
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