第5話:それは触れぬ障り者04
「心配した」
「良かった」
「安心した」
見舞いに来た両親の言葉を簡略化すれば、そんな言葉に収まる。
「申し訳ない」
とは零那の謝辞だ。息子の不幸さ加減は両親も知ってはいるものの、今回はとびっきりだったろう。愛されている事の逆説的証明だが、嬉しがるのも不謹慎。
「にゃあよう」
一子は傍に居なかった。両親との面会に水を差すことを躊躇った顛末だ。その心の砕き様は零那としても嬉しい限りである。
意識の方は明瞭で、幾つか診査も受けたが特に問題はなかった。脳もスキャンし、体の具合も調べられた。とはいえ骨折一つもなく、単純に頭を打って昏倒しただけ。
結果論で語るならそんな形に落ち着く。
「俺も中々に無敵超人だな」
「だよだよ」
一子も零那に同意する。
「しかしお前は学校行かなくていいのか?」
「零那ちゃんが心配」
「気持ちは嬉しいが……」
それにしても、と言った様子だ。
「担任は承認してるのか?」
「あまりそこまで深く考えていないんだよ」
「ワンコが不良にねぇ?」
「二葉ちゃんたちも心配してる」
「その内面会できるだろ」
「だよね!」
「色々と面倒ではあるが……ワンコもフォローくらいはしてくれよ?」
「ワン!」
「どう受け取った物か……」
零那は肩をすくめた。咳払いが聞こえる。部屋の扉からだ。担当の医師がいた。
「どうも。診査ですか?」
「いえ。その……」
何かしら含んだ物言い。
「何か?」
言葉にはしなかったが零那の黒眼は視線で問う。医師は少したじろいだ。
「その……どなたと話されているので?」
「ワンコ」
「…………ですか」
肯定は得られたが、挟まれた間は懸念に値する。
「冷静にお聞きください」
「虚心平気に……ですか?」
「いえ、おそらくは混乱を避けられないでしょうが」
「聞きましょう」
頷く零那に、医師は言った。
「残念ながら青春一子さんは亡くなられております」
「…………」
医師の言葉の通りに混乱した。零那には有り得ない事実だろう。
「えーと……?」
とかく状況と現実の摩擦が熱となって場を温める。医師は端的に説明した。
交通事故に巻き込まれた零那と一子。そして一子が直接的にトラックに轢殺され、病院に運び来られるも死亡。零那の方は一子を間に挟んで間接的に轢かれたため、大事には至らなかった。
「…………」
顛末を聞き終えて、
「お前何者?」
零那が一子に尋ねると、
「ワンコだよ?」
毒にもならない返答が戻ってきた。
「死んでるのか?」
「そんな自覚は無いんだけどなぁ……」
ぼんやりと呟く。
「その件に関しましては精神神経科の先生を割り当てますので……」
そんなこんなで精神疾患と取られる零那であった。
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